景気後退とは何ぞや

専門家の役割というのは、タテマエ的に言えば、「一般性のある内容を発言する」というものであって、都合の良いように人々を動かすために不正確なものの見方を広めるのは、政治的な行動というべきで、本来なら専門家のすることではありません。
現実にはそんな青臭いことをしている人はあまりいないと思いますが。
日銀と財務省が「景気後退」を認めない理由~GDPギャップ「10兆円」、回復基調はウソだった!(ドクターZ) | マネー現代 | 講談社(1/2)

伝統的なマクロ経済学では、2四半期連続のマイナス成長を「リセッション(景気後退)」と定義する。これに従えば、いまの日本は紛れもない景気後退期に入っていることになる。

この「定義」を機械的に振り回す人がふえたな、と思うのですが、たしかにマクロ経済学の教科書では上記の定義を妥当としていますが、批判が多いのも事実です。
これは主にアメリカ政府の定義なのですが、それでもとにかく機械的にこの定義をあてはめているかどうかは怪しいところ。
マンキュー経済学でも上記の定義を掲載していますが同時に、「景気後退:実質所得が減少し、失業が増加する時期」とも説明しています。
「景気後退」という言葉は、幅をもって使わなければならないということだろうと思います。
私が持っている経済学用語辞典では・・・

新経済学用語辞典 (新経済学ライブラリ (別巻8))

新経済学用語辞典 (新経済学ライブラリ (別巻8))

  • 景気後退に関する共通のコンセンサスや定義はない
  • GDPが連続2〜3四半期低下すること

としています。
いまの日本は実質所得が増加し、失業も減少していますから、ふつうに考えると景気後退とは言えません。

「景気」を分析する際には、GDPの「増減」に加え、GDPの「水準」も重要になってくる。水準とは、言い換えれば、いま日本がどれだけ「豊か」か、ということだ。

やっぱり自覚的に誤魔化していましたね。
水準でみると、いまのGDPは2013年のそれに戻っています。
この誤魔化しに気づかない人たちが経済に詳しいとは思いませんし、専門書や論文はおろか、初級教科書すら読んでいないことを私は確信しました。

現実のGDPが潜在GDPに近い水準である場合、現存する資本や労働が最大限に活用されている状態である。このため、雇用環境は極めて良くなる。つまり、「景気が良い」と言えるのだ。

「景気が良い」のと「景気が拡大している」は別です。
ここもちゃんと気づきますよ。

内閣府の算出によると、GDPギャップは10兆円程度。ただ、この数字はまだいいほうで、日銀は何と、GDPギャップはないという見解を示している。
もし本当にギャップがないなら、物価はとうに上がりだしているだろう。それに、ほとんどの業種で人手不足になって、賃金もかなり上がっているはずだ。ところが、物価は上がっておらず、賃金も上昇してはいない。「GDPギャップがない」というのはありえないのだ。

これを読むと、日銀がとんでもないウソをついているかのように印象づけられますが、GDPギャップの推計が、方法によって差がでるのはどこの国でも同じ。
Update of “How Big is the Output Gap?
アメリカのGDPギャップについて語られる場合、CBOの推計を使うのが通例というだけ。
ただ、日銀の推計が甘いとは私も思います。
名目GDP予想を日銀だけに任せるのは良くないと思うのはここが理由です。市場予想も活用するべきです。

だが、それを認めると、ギャップを埋めるため、10兆円を超える莫大な補正予算を投入しなければならないことになる。彼らはそれをやりたくないから、秋の臨時国会を開かなかった。とはいえ、何もしないのはまずいので、3兆円という補正予算を決めたのだ。

この辺もまた、しれっとした誤魔化しです。財政政策を行っても、GDPギャップがうまる保証はありません。
現に2015年は、2014年の補正予算が執行されたにも関わらず、ギャップが開きました。いま、開いている真っ最中。

本来であれば、アベノミクスによる外為特会で20兆円、労働保険特会で5兆円という使えるカネがあるので、それを元手に補正予算を決めるべきだ。そうした多額の「埋蔵金」があるのに、補正予算はわずか3兆円。セコすぎるこの役所が変わらない限り、本当に「回復基調」に乗る日は、どんどん遠ざかっていく。

特別会計のお金を使えという結論は賛成なんですよね・・・補正で一気に出せというわけではありませんが。
結論に至るまでの手法に賛成できないのですが、まっとうな理屈でこの結論に至れない理由とは何なのでしょうか。