黒田総裁の言い分はインフレ目標と矛盾する

消費増税しないと言いながらする、減反をやめるといいながらやめない、農協を改革するといいながら現状を追認する、といった具合に、支持をとりつけておきながら「やむを得ず」妥協する、という手法をとって上手くやっていこうとする戦術が透けて見えてきた気がして何だかなぁと思ってしまいますが、他の政治家・政党のバカな発言を批判していると結果的に安倍政権が一番マシになってしまうという不思議。特権階級の手のひらで踊らされるのが癪ですが、他に選択肢がありませんし。
ただ、「上手く騙せている」と安心するのは油断というものですよ。安部首相の欺瞞が一般国民にも見ぬかれてしまったときに何が起こるか恐ろしいです。「2009年の民主党革命の悪化版」といった事態が発生したら困ります。今の民主党のように、自民党が再起不能なほどに負けると、そのあと安定して政権を担える政党はなくなるのかもしれません。
二大政党制どころか、ブームとして選挙に勝って政権をとり、失望されて大敗する政党が入れ替わり立ち代わり出てきては消える、ということを反復し続けるようになるとかね。
安部首相の中の不誠実なものがじわじわと輪郭を明らかにし始めた今、未来予測は一転して暗いものになってきました。私の中だけですけど。

田総裁の言い分はインフレ目標と矛盾する

焦点:日銀総裁が成長強化へ「3つの提案」、低い供給の天井に危機感 - ロイター
危ないことを言い始めています。
前のエントリと同じ部分の引用ですけれども、黒田総裁は、「規制改革で生産力と生産性を向上させよ」と主張しています。

具体的には、1)企業における前向きな投資を促す、2)女性や高齢者などの労働参加を高め、高度な外国人材の活用で労働の供給力を高めていく、3)規制・制度改革を通じて生産性自体を向上させていく−−ことが「非常に重要」と指摘。

そのこと自体は別に良いわけ。
金融政策で需要を盛り上げ、規制改革で生産力・生産性を拡大する、という考え方は浜田参与とも岩田副総裁とも共有できる考え方であって、おかしいことはない。
ただ問題は、インフレ目標とは両立しない。
生産力と生産性の向上は物価引き下げ要因ですから、これを拡充したら、いつまで経ってもインフレ目標を達成することができません。
また、「一度インフレ目標を達成したら、その後は達成できなくても良い」とばかりに生産力と生産性を向上させることに邁進してしまったら、これまたインフレ目標を設定する意味が無い。将来予想を安定させて投資と消費を安定させることで、持続的に経済成長する、という主旨が達成できない。
それじゃぁってんで、生産力と生産性を拡充した上に更に金融政策をブーストして無理やりインフレ目標を達成しようとしたら、名目成長率が高くなりすぎてバブルになる危険性があります。
浜田参与のように、インフレ目標を放棄するなら上記の考え方は成り立ちます。「中央銀行がまともに振る舞えばインフレ目標は必要ない」というのが浜田参与の考え方ですから。
しかし、黒田総裁はインフレ目標を掲げているのですから、浜田参与と同じ立場をとることはできません。
また、浜田参与が「追加緩和するべきだ」と主張しているのに黒田総裁はしませんでしたから、浜田参与の立場から見て黒田日銀は「まともに振舞っている」とは言えません。つまり、インフレ目標が必要な中央銀行です。
もし整合性をもたせようとするなら、黒田日銀が名目GDP目標を持つべきだということになります。名目GDP目標ならインフレ率について約束するわけではありませんし、まともに振る舞わない中央銀行であっても縛ることができますし、経済の拡大について安定的な予想を生じさせることもできます。しかし、名目GDP目標は実際に採用することについて困難があります。
黒田総裁が上の記事で言っていることは、一般論としては正しいけれども、黒田日銀が言えるべきことではないということなんです。
黒田日銀が言ってしまったら、それは何かをごまかしていることにしかならない言い草であるわけです。
インフレ目標のような枠組み政策が財務省ドグマと根本的に相容れないということなんでしょうし、安倍政権も枠組み政策の意味をよく分かっていないということなんでしょうけれども、「予想」を軽視する、或いはドグマ的な事情で軽視したい、ということだと、安定した経済運営はできませんよ。カネさえ刷ってりゃ何とか成るという考え方は間違いなんで、それは2013年5月の株価暴落とその後数ヶ月間の経済低迷、そして今の「原因不明の円高」を見れば明らかでしょう。
黒田総裁は今の円高について、「円高になる要素がない」と言っているそうですが、まさしくアンタの姿勢が問われて円高になっとるのですよ。黒田日銀の弱腰、安倍政権の欺瞞について市場が疑いを持っているわけ。ま、海外情勢が不安だから円を買うというのもあるとは思いますが。
黒田総裁が何と言おうと、金融緩和をしているのに円高になっているのは事実なのですが、白川とそっくりな感じで詭弁を使って早々に逃げを打ちましたね。「金融政策は株価や為替のためには使わない」とか言って。だから旧来の日銀派は大喜びで肯定的な記事を書いています。日経とかロイターとか。実にまぁこれは安倍政権と黒田日銀による国民への裏切りであります。
為替や株価のために金融政策を使うべきではないというのは確かに今の世界の一応のお約束ですから*1、これまた一般論としては正しいのですけれども、為替や株価の調子が悪くなると実体経済の調子も悪くなる、このメカニズムに責任を負うのは日銀なんであって、「原因が分かんねぇ」「金融政策は関係ねぇ」などと「断言」して済む問題じゃないんですけど。
金融緩和しておきながら「予想」を壊して為替や株価を悪化させて経済を低迷させると、それは金融政策を否定的に印象付けることになるので、日銀の存在意義を疑わせ、アベノミクスの有効性を疑わせることになって自殺行為なのですけれども、安部首相も黒田総裁も、「官僚の支配構造に逆らえるわけねーじゃん」という感じで矛盾したことを粛々と進めてしまっていて、その先どうなるかを考えていない、考えたくないから考えない、という雰囲気です。
官僚と上手いことやれば安部首相も黒田総裁も成功した人物として花道を用意して貰えるのでしょうから、個人としてはそれで良いのでしょうけど、国民を騙してやりたいことだけやって逃げた、ということは分かる人には分かってしまいますから、細々とかもしれませんが、批判され続けるでしょう。少なくとも私は言いますね。痛くも痒くもないだろうとは思いますが、万が一天罰を食らうようなことになっても同情する人はいないと思います。

*1:為替のために金融政策を使ってはいけない、という考え方があたかも真理であるかのように語られていますが、経済学的には恐らく根拠ない考え方でしょう。何が悪いのか私にはさっぱり分かりません。この考え方は為替によって金融政策を制約してしまっています。結局、海外の製造業者が政治的圧力を加えるのが問題であるだけで、それ以外のちゃんとした理由はないのでしょうから、そういった業者に何らかのメリットを与えるような方法を考えれば乗り越えられる制約ではないかと思います。