異次元緩和は消費増税の道具

危惧されたとおりの流れですねぇ。異次元緩和は消費増税のために行われているだけで、デフレ脱却は二の次。有効性が示されたことによって金融政策は活用されていくかもしれませんが、それに沿って消費税が上がっていく未来が見えてきました。消費税を20%とか30%にして賦課方式社会保障を無理やり維持して、ついでに社会保障に群がる特権業界や天下り官僚の生存圏を保ったら、ものすごい格差社会になってしまいます。
田中角栄が始めた賦課方式は、「現役世代が引退世代を支える」という方式であるため、それ自体が格差を広げる仕組みであり、制度の中には政府の規制で守られて超過利潤を得る業界があり、そこに天下る官僚がいて、献金と票を得る政治家がいます。その構造を消費税で維持するなら、消費税の逆進性によって更に格差が広がります。
金融政策で経済成長できるようになったとしても、その果実は若者や低所得層からどんどん吸い上げられてしまいます。見かけ上経済大国であっても、大多数の庶民には豊かさが僅かにしか回らず、大半が公務員とそれに連なる特権階層によって独占される、不公平な社会になってしまうでしょう。
素晴らしい効果を持つ金融政策も、日本官僚にかかればディストピア製造装置に早変わりします。

金融政策の据え置き決定、量的・質的緩和を着実に推進−日銀 (訂正)
5月21日(ブルームバーグ
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N5T3JQ6K50YB01.html
JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストはリポートで「消費税率再引き上げに関する安倍晋三首相の判断にとって重要な意味を持つ第3四半期GDPの伸び率に関する不透明感は払しょくされていない」と指摘。「日銀の追加緩和なしに第3四半期GDPの高い成長を期待できるかどうか、現時点では『微妙』という状況だ」という。
黒田東彦総裁は15日、都内の講演で「仮にわれわれの見通し通りに2%物価目標が達成されなければ、2年を念頭に置いて2%を達成するため金融政策の調整を行う」と言明。「追加緩和を行う選択肢はあまりないのではないかという人もいるが私はそうは思わない。必要なら2%目標を達成するための方法、手段、選択肢はたくさんある」と述べた。
菅野氏は黒田総裁の発言について「これは、従来の『必要とあらば、ちゅうちょなく緩和する』という表現からさらに一歩踏み出したものと評価できる」と指摘。「日銀も追加緩和は5月以降の経済指標次第、ということで、現在は和戦両様の構えでいるもようだ。7月追加緩和の可能性は依然残されている」としている。

ここに出てきている「菅野」というエコノミストは日銀出身で、もともとはリフレーション政策に反対していたので、岩田規久男教授(当時)と討論したりしていたのですが、この記事中では追加緩和に肯定的になっています。
なぜか?
追加緩和が消費増税の道具だからです。
この辺、安部首相にも疑念が高まるばかりなのですが、現在において追加緩和が必要なのにやらないのも、今年中盤に追加緩和をやる可能性が高いのも、すべて消費増税のためなんですよね。
いま追加緩和したら「消費増税は経済に有害」と認めることになるし、中盤に追加緩和しなければ、消費増税がやりにくくなるかもしれないから、という具合。
黒田氏が日銀総裁になれたのは、財務省と安部首相の間で消費税をめぐる取引があったからと見るのが妥当ですね。
黒田総裁は消費増税の条件を整えるエージェントであると。
10%への消費増税について安部首相は消極的であると報道されていますが、私は信じませんね。
増税は必ずやるでしょうし、もしやらなかったとしたら、財務省に大きな借りをつくって延期する程度であって、何年かしたらやるでしょう。借りをつくって延期という事態は、より悪いことになるでしょうしね。
100歩譲って安倍政権のうちに再増税はしない、ということになるなら、それは安倍政権の短命化ということになるだけだろうと思うので、おんなじことであります。

をそらすのは危険信号

白川と同じように黒田総裁が供給力うんぬんといった話をしていますが、供給力は日銀の守備範囲外です。このように話をそらすようになっているのは、ごまかしたいことがあるからです。記事を読む人は金融政策について詳しくない、関心もあまりない、という人が多いですから、関係ありそうなことを適当にしゃべくっていると何となく納得してくれるものです。そういったことを黒田総裁が狙い始めています。
また、「規制改革が本命、追加緩和はしない」という話の流れが、昨日の東京新聞の記事と同じであることに注目。
リークですわ。
マスコミと一体となった世論誘導が仕組まれています。こういうことを安倍政権も知らないはずがないんで、残念ながら一緒になってやっているわけですな。

焦点:日銀総裁が成長強化へ「3つの提案」、低い供給の天井に危機感
2014年 05月 21日 20:51 ロイター
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0E111Z20140521
中長期的な課題としながらも「今が課題を解決していく好機」と議論を促し、供給力を強化することが「デフレからの脱却と日本経済の復活をつなぐ、最後の、そして最も重要なピース」と断言した。

供給力を強化すること自体は良いんですよね。
しかしそれはデフレ脱却や日本経済の復活とは関係ありません。黒田総裁は「デフレは需要不足だ」って言ってきたのですから、あからさまに矛盾しています。
今の供給力で経済が復活すればそれで良いんで、供給力を強化したらそれにつれて金融政策も変化させる必要がでてくるだけでしょう。
規制改革が「最も重要なピース」とは、白々しいことを言ったもんですね。
金融政策と規制改革を同列に並べるなんて、専門家としての良識を疑われますよ。正しい金融政策なしで供給力を強化したらデフレになりますし、生産性を向上させたら失業者が続出しますが、それは良いのでしょうか?

具体的には、1)企業における前向きな投資を促す、2)女性や高齢者などの労働参加を高め、高度な外国人材の活用で労働の供給力を高めていく、3)規制・制度改革を通じて生産性自体を向上させていく−−ことが「非常に重要」と指摘。

「企業における前向きな投資を促す」なんて他人ごとみたいに言ってますねぇ。それは日銀の仕事ですよ。投資における不確実性を緩和するのが安定した金融政策の役割のはずですが、黒田総裁の政策観には、それがまさに欠けています。
黒田総裁は「予想は大事だ」と口では言いますが、実際には予想を軽視しています。だからこそ、今回の追加緩和も見送ったのですし、「夏には消費が回復する」などと言うのです。それはつまり、「夏までの4月〜6月期には経済が減速するけれども、日銀は何もしない」と言っていることになり、そんな不安定な見通しのなかで企業が投資するはずが無いんです。
黒田総裁が予想を軽視して、先行きを不透明にしてしまうから投資が減るんですよ。
先行きを極力安定させて投資を促すのが、インフレ目標や名目GDP水準目標といった、枠組み政策、ルール政策の大きな眼目であるのに、黒田総裁はそのポイントを見事に外した上に、その役割を規制改革に押し付けようとしているわけ。
その態度はまさに白川的ですし、果たせない役割を押し付けるところも白川的です。
規制改革では投資における不確実性を和らげるなんてことはできません。経済の見通しを安定化させる機能を持っていないからです。
お次はロイターによる、お馴染みアホ「解説」

総裁が供給力強化の重要性を強調するのは、低下を続ける潜在成長率への危機感といえる。バブル経済の崩壊以降、潜在成長率はほぼ、すう勢的に低下を続け、日銀試算によると足元では0.2%割れとほぼゼロ%。
日銀が2%の物価安定目標の実現に向けて大規模な金融緩和策を続ける中、こうした低い供給の天井が物価上昇要因に作用する可能性がある。

田巻が関わっているから、こういうバカな記事なるのは当然なんですけど、潜在成長率っていうのは供給力、つまり生産能力の伸び率なんですけれども、これがデフレの時代に低いのは当たり前です。モノやサービスが売れないのに生産力を強化する企業は無いですから。潜在成長率を伸ばすのが規制改革の役割であるのが正しいとしても、規制改革にしか出来ないかのような書き方をするのは間違っています。その意味では黒田総裁の言い草も欺瞞的です。
生産能力の限界が物価上昇要因になっても別に構わないわけですよ。モノやサービスが売れて物価上昇しているなら、企業はさらなる利益を求めて自発的に効率化していくのですし、規制改革がそれを後押しするなら、企業を必要もなく制約する規制を外すべきなんで、いずれにせよ主役は民間です。規制改革だけやっても、金融政策がダメで経済の見通しを不安定化させたら企業は生産力の拡充なんてやりません。
しかしまぁ、黒田総裁も、自分がバカな屁理屈を言っているのは重々承知しているのでしょうね。そういう立場だからどうしようもない、ということでしょう。安倍政権になっても、日銀総裁が詭弁を弄しなければならない「支配構造」は変わっていないというわけ。本質的な改革は全然できていないので、将来に15年デフレのような状態に戻ることもあるのでしょう。

んなの党の失脚が、かえすがえすも痛い

安部首相の態度もあかんなぁ、と思うしか無い日々ですが、所詮は特権階級の生まれですからねぇ。根本的なことをやって官僚どもとトラブルになるのが嫌なのでしょう。
安倍首相にとっては幸運なことに、国民にとっては不幸なことに、安倍政権以外の全政治家が本当に碌でもないのが揃ってしまっているので、安部首相が国民からの信頼を裏切っている気配が濃厚であったとしても、消極的に、ごく消極的にでも支持せざるを得ません。
ほかの政治家、政党はもう、政権をとったら数年で日本を没落させかねないような、脅威としか言いようのない連中しかいませんからね。
安倍政権に代わり得る唯一の政党であった「みんなの党」がああなってしまった以上、選択肢はありませんな。
達観しつつ政治に文句を垂れる、矛盾した非生産的な活動をするしかないというのも、こんな国に生きるしかない虚しさであります。