「自民リフレ」に本格的暗雲【麻生問題】

政権発足早々から非常にマズいことになっています。
この調子で修正がなされなければリフレは失敗し、デフレ脱却はできないでしょう。
参院選直前にはリフレ効果らしきものを演出するはずなので、その一時期には経済の多少の回復は見られるでしょうが、自民党がそこでも勝利した場合、リフレ政策を放擲する可能性があります。
特に麻生太郎氏が就任してすぐさま連発している発言は、聴く人が聴けばリフレ否定であることがわかります。

インフレ目標についての麻生氏の見解

麻生太郎副総理兼財務・金融相 日銀との政策協定「次回決定会合までをめど」
2012.12.28 21:52
【略】
−−政権公約の2%の物価目標は、アコードに盛り込むか
 「まだ、正確に詰めたわけではない。2%という数字だけが踊り始め、物価は2%上昇しているのに、給料が上がらないというケースは断固避けたい。(アコードは)日銀も納得してもらえるものでないと、意味がない」
【略】
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/121228/fnc12122821560017-n1.htm

目標を入れないとインフレ目標にはなりません。
また、2%を下回る目標にも意味がありません。
そして、消費者物価指数(CPI)にするのか、コアCPIにするのか、コアコアCPIにするのか、GDPデフレーターにするのか、で意味が大幅に変わります。
CPIで2%未満であるなら、仮にインフレ目標を定めてもデフレ脱却をすることはできません。
その上、その原因は大半の有権者には理解できませんし、理解する気持ちもありませんし、政府もマスコミも理解させる気がないでしょう。
つまり、「リフレ政策は無効だった」という方向に持って行こうとする意図が透けて見えます。

為替レートについての麻生氏の見解

麻生財務相:通貨安にしているわけではない
  12月29日(ブルームバーグ):麻生太郎財務相は28日、同省内で行われたインタビューで、安倍晋三首相の金融・為替政策に関する積極的な発言で円安が進み、これが世界的な通貨安競争につながるとの見方に否定的な見解を示した。主要3通貨のうち円高は突出していると指摘。同時に米国に対してドル高政策を取るよう注文をつけた。

これは驚きですし、深刻な事態です。
何が驚きか。
麻生氏は財務大臣内閣府特命担当大臣(金融担当)でありながら、アメリカや日本が変動相場制をとるのは自由に金融政策を行うためであることを理解していないか、無視していることです。
何が深刻か。
中国と同じことを言っていることです。
俺たちの麻生」が。

麻生財務相は自らが首相として出席した2009年4月の20カ国・地域(G20)首脳会談で、「通貨安競争はやらないという約束をしたが、その時の約束を守った国は何カ国あるのか。米国はもっとドル高にすべきだ。ユーロはいくらになったのか」と言及。

アメリカは通貨安競争をしているのではなく、国内景気のための金融緩和政策をしているのです。
それが変動相場制をとるメリットなのです。
麻生氏の発言が極めて間違っているのは、アメリカに対して「変動相場制をとりつつ、そのメリットを自主的に放棄しろ」と言っている点です。
それではまるで日銀になってしまいます。
日本銀行は自由な金融政策をとることができるシステム下にいながら、自ら、どういうわけかそれを封印することによってデフレを継続しています。
同じ事をやれと麻生氏はアメリカに言っているのです。
日銀が緩和政策をやらずにすむように、アメリカがドル高政策をとればよいと言っているのです。

その上で、約束を守ったのは日本だけだとし、「外国に言われる筋合いはない。通貨安に急激にしているわけでも何でもない」と強調。さらに「通貨が安くなるといって良かったと言っているのは輸出している人達だけ。輸入している人は通貨が安くなれば迷惑する」とも述べ、日本が意図的に通貨安競争を促す立場にはないとの認識を示した。
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MFS7TA6K50XS01.html

これまた深刻な発言です。
NHKもどういうわけか同じタイミングで同じ事を言っているのが奇妙ですが(下記参照)、日本では円高のデメリットが大きいからこそ企業が潰れ、失業者が増え、不況なのです。
それは実際に我々の目の前で起こっていることであり、家電企業の苦境などがさかんに報道されている筈なのですが。
麻生氏は財務大臣内閣府特命担当大臣(金融担当)でありながら、円安と円高の影響について「どっちもどっち」といった認識しか持っていないのです。

人事についての疑問

私はまだ、デフレ脱却に対する安倍総裁の意思を疑いきってはいませんので、修正が今後なされて強力なリフレ政策が実行されることを願うばかりなのですが、閣僚や経済財政諮問会議の人事を眺めていると疑念が湧き上がるのを抑えることができません。
リフレーションとは矛盾したこの人事が行われた理由について色々考えてみますと、

  1. 「本当にやってくれる」と信じてまかせたが、蓋を開けてみたら裏切られた。
  2. 「ダメだ」と思っていたが、党内の政治力学によって仕方なく配置した。
  3. 単に人選を間違えた。
  4. 安倍総裁もまた、実はリフレをやる気がない。

のどれかになると思います。
ただ、ロジカルな判断をするのが嫌な局面ですが、麻生氏は以前から金融政策には否定的な人物であり、それは本人がテレビ番組の中ではっきり発言してきています。
そのような人物に財政と金融の両方をまかせたという時点で、常識的に考えると強い疑いを持たざるを得ません。

デフレの克服は金融政策でなければ不可能

最後に強調しますが、デフレは貨幣的現象なのですから、金融政策で対処するのが本筋ですし、根本的にそれ以外ないですし、もっといえば他のものは要りません。
それでも、15年続いたデフレを脱却するのに役に立つならということで、「国土強靭化」といった財政政策にも消極的に賛成するリフレ派がいるわけですが、金融政策の正常化を放棄して、経済に疎い一般国民の視線をごまかしながら財政政策に走ることによってデフレに漬かったまま、国家債務を悪化させるような政治に向かうのであれば、心あるリフレ派は反自民になるでしょう。
既に今の時点で、浜田宏一教授は「国土強靭化」政策には反対の主張をなさっています。
時流に媚びない真の経済学者の面目躍如です。

日銀は無制限緩和を、物価目標2─3%が適切=浜田宏一教授
2012年 12月 28日 08:47
[東京 27日 ロイター] 安倍新政権で内閣官房参与に就任した米エール大の浜田宏一名誉教授は27日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀の金融緩和策について、買い入れる資産の総額をあらかじめ設定せず無制限にすべきだと指摘、物価上昇率目標の達成に向け、より残存期間の長い国債や株式などリスク性資産の購入拡大が必要との認識を示した。外債購入も一案に挙げた。
【略】
「金融緩和をするので財政も、というのは違う。日本の財政は危機的ではないが、深刻な状態だ。金融緩和で増えた税収は、財政再建に使うべき。税収が上がるので大盤振る舞いすると、せっかくの金融緩和の財政への好影響がなくなってしまう。財政再建のために消費税を増税すれば、パイがしぼむ。景気が回復してから、税率を最小限度だけ上げるのが望ましい」
「防災・減災や震災復興など本当に必要なことを遅れずにやっていくことは極めて重要。ただ、国土をすべて強靭(きょうじん)化することはできない。財政による景気振興政策はむしろ考えない方が、日本経済の健全な発展に重要だと思う」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8BQ04C20121227?sp=true

麻生発言と奇妙な符号を見せるNHK円高礼賛

時論公論 「安倍新政権の経済政策」
2012年12月27日 (木)
山田 伸二 解説委員
(円安が本当に良いこと?)
そもそも、円安が、本当に良い事なのでしょうか。
確かに、円安になれば自動車や電機などの輸出産業は為替差益で、収益は改善します。
しかし、ヨーロッパの自動車メーカーは、ユーロ高でも輸出価格を上げているのに、日本の車は円高で価格を上げられない、こうした競争力の落ち込みが根本の問題です。
円安で競争力を回復させ経済を再生させるというのは、楽観的では無いでしょうか。
経済全体を見ても、ドルなど外貨建でみると、輸出額より輸入額の方が多くなっており、今や、日本全体では円高の方がメリットが大きくなっています。
原発が止まりLNGの輸入を増やさなければならない今、円安は首を絞めかねません。
円安のデメリットも視野に入れて、考える必要があります。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/142284.html