野田的経済観の間違い

テレビでも金融政策が論じられるようになったのはとても良いことで、これも安倍総裁の功績かと思います。
しかし、金融政策は政治家の方々にとっても難しい話題なので、まだモノにしていない方が多いようです。
これは皮肉ではなく、金融政策は日本の政治・経済・ジャーナリズムの思想的土壌に根付いていないものなので仕方ないことなのです。
今のところインフレ率を適度に保つ重要性に気づいているのは安倍総裁、みんなの党新党改革だけです。
上記3つの党は財政政策と金融政策の違いを把握し、併用の重要性を理解し、財政政策にもさまざまな方法があることをわかっていますが、それ以外の党首の方々は、財政政策=公共事業だと考えており、たとえば子ども手当やら女性や中小企業の支援なども財政政策だということが今ひとつわかっていないようです。
公共事業に限らず財政政策をやるのであれば財源をどこかから調達せざるを得ず、その調達によって金利が上がり、通貨高を通じて需要が外に漏れてしまう問題を金融政策で塞ぐ必要性をまだ弁えていらっしゃらないのです。

野田佳彦氏の稚拙な理解

野田佳彦氏はフジテレビの「新報道2001」という番組の中で安倍総裁と経済問題について議論しましたが、そこで彼の持つ経済観の問題点がいくつも露呈しました。
まず、野田氏は以下のような誤りを述べました。

  • 民主党はインフレ率1%、実質成長率2%を目指す。実質成長とは実質賃金の上昇である。
  • 自民党の公約はインフレ率2%、実質成長率1%なので、給料よりも物価が上がる傾向が強い。それは生活必需品やガソリン代が上がることに比べて給料が上がらないということ。

この間違った見解に対して安倍総裁は「名目が現実のお給料です」と的確な指摘をしていましたが、スタジオにいた面々でこの指摘が理解できたのは恐らく渡辺喜美氏と舛添要一氏だけで、残りの方々は聞き流していたようです。
野田氏にも理解できていなかったことは確実で、安倍総裁の意見を聴いた後も自分が先ほど発言したことをそのまま繰り返すだけでした。野田氏はブレーンから言われたことを丸暗記して話しているだけのようです。
まず民主党の言う「インフレ率1%を目指す」という考え方ではデフレからの脱却はできません。
なぜなら消費者物価指数は高く出る傾向があるので、1%の上昇率では実際にはデフレであることが多いからです。
実際に日銀がその程度の上昇率を理由にしてゼロ金利政策量的緩和を解除したことによって、2000年代初頭のデフレ脱却に失敗しています。その辺の自殺行為を指してアメリカの経済学者の中には「日銀は異常なマゾ」と揶揄する人もいるくらいです。
また、インフレ率1%・実質成長率2%と言うのは誰でもできますが、野田氏の言っていることは自民党に反対するための数字合わせに過ぎず、それらの数値はそう都合よくコントロールできる種類のものではありません。
特に実質成長率というのは出てきたインフレ率から後になって産出するものなので、狙って出せる数字ではありません。
インフレ率が低く実質成長率がそれなりに出るという状況は、デフレの今も観察できることですが、それはつまり沢山働いて生産しているが売上額は低い、ということなので効率が悪い状態です。
また、実質成長は何もしなくてもなんとなく上がることがあるので、民主党の掲げている目標は、「無策であっても成果を偽造できる」ためのものであって、まことに民主党らしい誤魔化しを先取りしたものだと思います。
そして野田氏は実質成長=実質賃金の成長、などという無茶苦茶を話していましたが、彼は自分が使っている用語の概念をほとんど把握していません。さすが丸暗記受験秀才です。
実質賃金とは我々の給与明細に載っている額ではなく、「そのお金で買えるモノやサービスの量」のことです。
安倍総裁はそれを理解していらっしゃったから「給料は名目です」と指摘したのです。
また、実質成長がそのまま労働者の給料になるわけではなく、GDPという収入には資本家の取り分も勿論あります。
更に言えば、「インフレ率を高めると生活必需品やガソリン代が高まるので生活水準は上がらない」と野田氏は言っていますが、生活必需品における食料やガソリン代は日本の経済政策とは関係なく決まる傾向が強いので、現にデフレの15年の間にも小麦や原油が値上がりして一部商品の価格が上がったことを忘れているようです。
つまり野田氏は価格と物価の違いを理解していません。
そのような事情があるからこそ、「インフレ目標の基準としては食料やエネルギーを除いたコアコアCPIか、GDPデフレーターを用いるべきだ」という意見があるのです。

失業率を表面的に評価する野田氏

次に野田氏は、

  • 小泉・安倍政権よりも現在の方が失業率が低いので、民主党の経済政策の方が優れている。

などと述べていますが、これも間違いです。
景気が回復局面にさしかかると失業率が上がったように見えることがあります。
これはアメリカにおける2012年9月〜10月の失業率で観察されたことですが、このようなことが発生する理由は「景気が回復し始めて仕事を探し始める人が増えると、その人たちは失業者にカウントされる」という事情によります。
景気が悪すぎて仕事を探すことを諦める人が増えると失業率は下がります。
現在の日本は民主党による誤った経済政策のせいで、何のショックもないのにリーマン・ショック以来の実質成長率の落ち込みを経験していますから、仕事を探すのをやめてしまった人が多いだろうと推測されます。実質成長率の低下、つまりモノやサービスの生産が低下しているのですから探しても仕事はありません。
「小泉・安倍政権時に格差が拡大した」ということがまるで自明のことのように語られますが、小泉・安倍政権期には「正社員数が増え、プライマリーバランスが改善した」という統計上の事実があるのですから、大変矛盾した意見です。
もともと職についている人同士の給料格差は拡大したかもしれませんが、職のなかった人に職が与えられたのですから、社会全体の格差はむしろ改善したのです。
プライマリーバランスがよくなったということは税収が増えたということなのですから、それは「所得と消費が伸びた」ということに他なりません。
小泉・安倍期に世の中が悪くなったという意見は印象論に過ぎず、データに基づいていません。

もっと端的に

ただ、「新報道2001」の議論を見ていた思ったのは、「正しいことを言っていても視聴者にとって難しいと不利だな」ということ。
その辺がわかっている老獪な人は正しい経済論議は脇において、視聴者の常識や直感にとって受け入れやすい話題・言葉を使って自己主張していました。
このような方法は誠実なものではありませんが戦術として有効であることは認めざるを得ません。
いくら正しくてもほんの少し難しいだけで大半の人は面倒臭がって聞きません。どれほど重要で必要なことであっても絶対に聞きません。
一般的な視聴者・有権者にわからせるためには、正しい内容をひたすら分かりやすく、簡単で短い言葉によって表現しなければならないと思います。
イメージとしては「日本国民は全員が10歳程度」という基準で話すことが肝要かと思います。
実行するのは容易ではないと思いますが…