池田信夫の安倍総裁批判 3

活発です。
中身は相変わらずですけれども。

安倍総裁の提唱する自民党の「焼け跡」政策
2012年11月16日(金)22時40分 エコノミクス異論正論
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2012/11/post-591.php
【前略】
特に市場に大きなインパクトを与えたのは、安倍総裁の「2〜3%のインフレ目標を設けて日銀に無制限に緩和してもらう」という発言だ。これを受けて円相場は半年ぶりに1ドル=81円台になり、日経平均株価は9000円台に乗せた。安倍氏は解散後の記者会見でも「日銀法改正を視野に入れ、大胆な金融緩和をする。かつての自民党とは次元を変えた経済政策をとってデフレ脱却に挑む」と語った。
 これについて記者会見でコメントを求められた野田首相は「中央銀行の独立性の問題が出てくるのではないか」と疑問を呈した。日銀法では日銀の独立性が保証されており、政府が「緩和しろ」とか「引き締めろ」ということは許されない。法的に日銀を拘束する目標は「物価安定」だけで、そのために金融調節をどうするかは日銀にゆだねられている。これは政治家には、つねに金融緩和を求めるインフレバイアスがあるからだ。

今の日銀法は中央銀行に過度の独立性を与えているのが問題です。民主党池田氏も日銀が政策に失敗し続けながら責任を取らない制度を支持していますね。
金融政策の目標は議会が、手段は中央銀行が担うべきであり、今のように「独立した」機関が政策の成否を問わず権限を握り続けているのは民主政社会にはそぐわない現象です。戦前の軍部を彷彿とさせます。
また、「法的に日銀を拘束する目標は「物価安定」だけ」であるなら、現在の日銀は物価安定に失敗し続けているのですから全く失格です。

(日米でバブルが発生しても)どちらの場合も消費者物価指数は上がらなかったので、インフレ目標で通貨をコントロールすると、バブルが崩壊するまで緩和が続けられるだろう。

バブル崩壊のダメージとは債務デフレーションですから、資産価格のブーム期にはレバレッジ率を下げる仕組みを作れば良いのです。
レバレッジというのは借金して投資するということです。
バブル潰しのために引き締め策を不必要に続けて「失われた20年」になったのはもちろん我が日本国です。バブルを罪悪視するのは仕方ないことですが、バブルを副作用なしに抑制する方法が今のところ無いのですから言っても栓のないことです。
例えば欧州危機は私たちの経済にとっても脅威ですけれども、だからといってドイツやフランスに向かって「バブルに通じるような経済は抑圧しろよ」と要求できますか?
或いは新興国に対して、「お前らの貯蓄がアメリカ不動産投資に向かってバブルを引き起こしているのだから貯蓄を持つな、というか豊かになるな」とでも言いますか?

無制限に緩和を続けると、マネタリーベースがある限度を超えたときインフレ予想が生まれ、金融資産が海外や実物資産に逃避し始める。これによって円が下がると輸入物価が上がってインフレが加速し、資金が不足して金利が上がるとさらにインフレが加速する。通常のインフレは金利を上げれば止まるのだが、インフレ予想で起こるインフレは金利が上がると加速する。これが制御のきかないハイパーインフレである。

おかしいですね。
昨日の私のエントリに挙げた池田氏による記事では、「金融緩和ではインフレにならない。そんなことすら安倍氏は知らない。」と書いていたのですが…
また、インフレ予想が生まれると制御のきかないハイパーインフレが起こる、と書いていますが、それって池田氏の俺理論ではありませんか?
残念ながらハイパーインフレを制御した歴史はあります。そうでなければ今だにハンガリーもドイツもジンバブエハイパーインフレのままでしょう。
過去に発生したハイパーインフレも、「中央銀行が貨幣供給量を抑制する」という予想を人々が持つことによって収束しています。
1920年代のドイツにおけるハイパーインフレは、「通貨改革宣言」によって急速に終わりましたが、この宣言の翌月の紙幣供給量は160倍、翌々月は9倍、という風に依然として大きく増えていたのです。
つまり、「中央銀行が貨幣供給量を抑制する」という強い予想を人々に持たせることができれば、実際の貨幣供給量とは関係なくハイパーインフレですら終息するという実例です。

安倍氏の掲げる政策は「マイルドなインフレは起こるがハイパーインフレは起こらない」と想定している。これは物価が粘土の棒のように柔軟に曲がるという前提だが、これまでの動きから考えると、物価はプラスチックの棒に近い。多くの経済学者は安倍氏のいうような無制限の金融緩和はリスクが大きすぎると反対しているが、安倍氏の予想が正しい可能性もゼロではない。

どっちなんだ、と詰め寄りたい気分ですが、物事が意に反した方向に流れた場合の逃げ道を残しておく辺り、さすが池田氏は世渡り上手です。
それはともかく、「多くの経済学者は安倍氏のいうような無制限の金融緩和はリスクが大きすぎると反対している」などと言っていますが、アメリカで現在進行形の無制限QE3はバーナンキ氏、クルーグマン氏など世界的な経済学者の支持を受けて実施されています。そういった事実は池田的平行世界には存在しないようです。

ハイパーインフレは、日本のように財政危機に陥った国では珍しくない。途上国では10年に1度ぐらい起こっており、どういう結果になるかもわかっている。

池田氏の才能だなぁ、と思うのがこの辺で、「矛盾した内容を不自然さを感じさせない書き方をする」ということですね。
文章の矛盾を見つける気持ちを持っている人でないと何となく納得してしまいますし、であるからこそ彼の支持者もいるのです。
日本は財政危機にはなっていません。財政危機というのはギリシャのような状態のことです。日本はまだ国債の消化が低金利でできています。
また、日本は途上国ではないので、途上国のハイパーインフレの文脈に日本を持ってくるのは酷い矛盾なのですが、あまり目立ちませんね。
こういうレトリック能力は参考にしたいですね。
そこだけだけど。