物価が上がるのは必ず悪いのか。
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7月の消費者物価は前年比マイナス2.2%と、過去最大の落ち込みを記録しています。これで物価下落は5ヵ月連続となり、ものすごいデフレが起こっています。岩田先生は先日出版した『日本銀行は信用できるか』の中で、日本経済最悪のシナリオであるデフレが進行していると指摘しています。にもかかわらず、先の総選挙の時も景気対策とは言いながら、デフレ対策はまるで論点に上がってきていません。
物価が上がるのは無条件に悪いこと、という刷り込みがマスコミを通じてだけでなく教育をも通じて国民の頭に染み付いてしまっているのでデフレ対策は支持を得にくい状況にあるのでしょう。
教科書では徳川綱吉が質の悪い貨幣を作って物価を上げてしまいました、とか暗君の代表のように習いますが、実は名君であると喧伝される徳川吉宗も貨幣改鋳をしています。吉宗自身は消極的だったのですが、ブレーン達に促されて貨幣の金含有量を減らし、世の中に出回る貨幣量を増加させました。「元文の貨幣改鋳」です。
奇妙なことにこの事実は教科書に載っていません。だから日本史を高校で学んだ人でさえも知らないのです。
そして更に奇妙なことには、この貨幣改鋳は大成功したものなのです。
貨幣量が増えたおかげで物価が上がり、好景気が到来しました。米価も上昇して「諸色高の米価安」という幕府を悩ませた問題が解消したのです。(武士は米を売って貨幣を得るので、米価が他に比べて安いと困るのです)
成功して「干天の慈雨」にも喩えられた重要な出来事がなぜ、教科書に書かれないのでしょうか。
推測に過ぎませんが、書き手の中に「インフレは悪いに決まっている」という思い込みがあるのかもしれません。そしてそれは「名君・吉宗」の政策として教えては整合性がとれないと判断して省いてしまっているのかもしれません。もしそうなら、客観性や合理性でなく、ドグマ的な前提で教育の枠を狭めてしまっていると言えましょう。
大不況における経済対策というのは、財政政策と金融政策が一緒になって初めて効果が出るんです。即効性があるのは財政政策ですが、それを持続させるのは金融政策があって初めて可能です。これは1929年の世界恐慌から学んだことです。ですからリーマン・ショック後、世界各国の中央銀行は貨幣の大量供給に踏み切り、具体的には長期国債やCPの買い入れを行っています。
ところが日銀は金融緩和に消極的です。リーマン・ショック後、流動性が不足したため、一時、CPなどの買い入れを進めましたが、その後すぐに減らしています。年末、年度末にはまた増やしても、それが終わるとまた元に戻す。結局これは信用対策であって景気対策にはなっていません。貨幣供給量の増加につながる中央銀行の資産量をみればそれは明らかです。たとえば米国のFRBは、今年5月段階で、リーマン・ショック前より2.4倍資産を増やしていますし、イングランド銀行は1.9倍です。ところが日銀の資産はわずか2%しか増えていません。その結果として日本ではデフレが進むことになったのです。
この政策を転換して、日銀が国債(とくに長期国債)や社債、CPを買い入れ、貨幣の供給量をどんどん増やしていく必要があります。こう言うと、日銀の信用がなくなるというようなことを言いますが、アメリカは金融緩和を進めていても、FRBの信用は全然なくなっていません。経済がよくなれば当然、日銀の信用は増すということです。もっとひどいのは日銀券の信用がなくなると言う人もいる。国債を引き受けると日銀の資産が毀損されると言いますが、日銀の資産の既存度合いを考えて日銀券を使う人がどこにいますか。まったく意味のない議論です。