パンツァーブリッツ

Panzerblitz - Wikipedia

パンツァーブリッツは第二次世界大戦の東部戦線を舞台にした、戦車・砲・歩兵の戦闘についての戦術級ボード・ウォー・ゲームである。
へクスで区切られたマップは、さまざまなシナリオに応じて組み合わせられるような幾つかの盤によって構成されている。
マップボードの縁はお互いに対応するようになっており、3つの盤が48通りに組み合わせられる。
勝利を達成するための特定の勝利条件が、さまざまなシナリオカードによってプレイヤーに提示される。
パンツァーブリッツは、ソ連の中隊とドイツの小隊のどちらかを表すユニットによる師団サイズの2つの軍の衝突をシミュレートするようにデザインされた。
この規模のシミュレーションはそれまでになかったものだった。
ほとんど全てのこれ以前のウォーゲームは旅団や連隊、師団のような、より大きな単位に焦点をあてていた。
パンツァーブリッツは1970年にアヴァロン・ヒル社より出版された。
デザイナーはジム・ダニガンで、初期の版は1969年のストラテジー・アンド・タクティクス22号で「タクティカル・ゲーム3」として出版された。
パンツァーブリッツは現代ボード・ウォー・ゲイミングの歴史において、まさに最初の戦術級ウォーゲームである。
この初期の版には基本的なルールがあったが限られた数のカウンターと1枚のマップから成っていた。
アヴァロン・ヒル社の箱入り版ではゲームに付属した大規模な軍勢ユニットと、プレイヤーが作り出す12通りもの状況を遊ぶことを可能にする3枚の地形マップを特色としていた。
パンツァーブリッツにおける戦略のほとんどは射撃か移動に関するルールからくるものだが、1つのターンで射撃と移動の両方を行うことはできない。
加えて、ユニットを完全に破壊することが難しいのでプレイヤーは敵を打ち負かすために1つのタイプのユニットの使用ばかりをするのではなく連合部隊を使用することになる。
パンツァーブリッツでの情報の詳述ぶりは、出版当時は驚きをもって迎えられた。
ゲームには東部戦線で使用された、あらゆる主要戦車の重量・スピード・砲の口径・総定員数に関する専門的な情報が載っていた。
さらに、その戦闘‐戦術的戦闘だが‐は戦略的柔軟性をユニットに与えるような非常に小さな単位の組織である迫撃砲班からトラック・ワゴンまでが特徴的に表現されていた。
これらの情報の大半は、軍の野外教範や部分的に機密扱いになっていた情報関係のレポートを除けば、それ以前に出版されたことがなかった。
2005年現在、パンツァーブリッツの版権はマルチマン・パブリッシング社が保有しており、この文章を書いている段階ではパンツァーブリッツ2を同社が開発している。しかし、1作目に対する関心は非常に高い。
新しいユニットやシナリオがThe BoardgamerサイトやVAIPA、Old Soldiers誌のような場に出続けている。それらは主にアラン・アーヴォルドの努力による。
新しいマップやカウンターさえも、ウォード・マクバーニーによって創られている。
パンツァーブリッツには2つの姉妹作品がある。1つはパンツァーリーダーと呼ばれ、西部戦線に焦点をあてている。もうひとつはアラブ・イスラエル・ウォーズであり、1956年、1967年、1973年の中東における戦争をとりあげている。
アラブ・イスラエル・ウォーズのカウンターの数値は第二次世界大戦を舞台にした2つの姉妹編と一致しているので、
現代装備と第二次世界大戦当時の装備を含んだ架空のシナリオを創りたいプレイヤーはゲームの内部整合性や現実味を保ったままでそうすることができる。

ゲームの内容

パンツァーブリッツはボード・ウォー・ゲームに多くの革新をもたらした。

1 異なる戦場を創出するために地形マップを色々な組み合わせにすることができた。これはスコードリーダーのようなアヴァロン・ヒル社の戦術級ゲームの特質となった。

2 装甲ユニットは一般的な軍事シンボルではなく車両のシルエットで表現され、これによってこのゲームは他の作戦級ゲームからの脱却をはたし、同時にミニチュア・ゲームを彷彿とするものになった。本箱型のパッケージとあいまって、このゲームはアヴァロン・ヒル製品の物理的品質への評判を高めた。

3 このゲームは所与の12のシナリオに限定されず、独自シナリオ(DYO)あるいは「シナリオ13」を創るための説明書が入っていた。デザイナー・ノーツには、ソ連戦車部隊を作るにはいくつのカウンターが必要かが示されていたが、これには追加カウンターセットをアヴァロン・ヒル社から買わなくてはならなかった。(しかしプレイヤーに対しては、このような贅沢をしないようアドヴァイスがなされ、「カウンター密度」を低く保つような促しがあった)
このように制約のないアプローチでパンツァーブリッツは何度も遊べるシステムになり、その特質は続くゲーム群によって広く模倣された。

4 専門的な細部の豊かさは先例のないものであり、この専門的なデータがいかに細かい描写で組み込まれているかも同様に先例のないものであった。「ゲームをプレイするどころか、パンツァーブリッツのゲームの内容を見ただけで、ゲームを知ることだけで非常に多くの歴史上のデータを身につけることができるという印象を持つだろう。あいにくにもゲームのなかではデータは修正されているので、額面どおりに受け取ることはできないが。その代わり、ゲームにデータが組み込まれる前になされたデータへの判断をいくつか理解しなければならない」とデザイナーノーツにはある。

5 大量の専門的データがあるにもかかわらず、パンツァーブリッツは覚えてプレイするのが簡単である。基本的なシステムはとても単純だ。パンツァーブリッツは、正確さよりも遊びやすさやデザインの優美さに重きを置く、アヴァロンヒル社のデザイン哲学の鮮明な表れなのだ。ゲームのメカニズムは抽象的であり、完璧に正確なシミュレーションよりも機甲戦に対する現実性のある「感覚」をあたえることを狙った。皮肉にもジェームズ・F・ダニガンは後にSPIという、高度に詳細なシミュレーションに重点を置いたことで知られるライバル会社を設立した。パンツァーブリッツの背後にあるデザイン哲学とは対照的に、アヴァロンヒル社は「トブルク」を続けて出版したが、その高度に専門的な性格に対して消費者に不満を持たれたあとに、そのゲームの権利を売却した。

パンツァーブッシュ

パンツァーブリッツの抽象的な単純性が多くの愛好者をひきつけたが、ある非現実的な面が非常に批判された。町や森のへクスにいるユニットは、敵から丸見えのところにいても、敵が隣接しない限り見えないことになっていて、射撃もされなかった。視認も射撃もされずに森から森へピョンピョン移動するこの能力は「パンツァーブッシュ症候群」と呼ばれた。
そしてパンツァーブッシュはゲームそのものへの軽蔑的なあだ名になった。このことを克服するために面倒な選択ルールが出されたが、パンツァーリーダーとアラブ・イスラエル・ウォーという後のバージョンでは「機会射撃」やより現実的な偵察と視界のルールといった遥かにましな解決法が提示された。これらのシステムでは敵を射撃した隠蔽ユニットは「発見」されて反撃を受け得るのである。より現実性を欲する人々はパンツァーブリッツをパンツァーリーダーの偵察ルールで遊ぶのが広く行われている慣行である。

非正規続編

アヴァロンヒル社の続編のほか、ダニガンがSPIのためにデザインした、パンツァーブリッツ風のゲームがいくつかある。「コンバット・コマンド」「パンツァー44」「メック・ウォー77」などである。