雇用が減らなくても、増えても、最低賃金制は有害

表題の件、あんまり認識されていないですね。
失業が出れば有害、でなければ有益、と考えている人が多いです。
この辺について私がよく理解できたのは、八田達夫教授の教科書が非常に優れていたからであって、マンキューの教科書でも同じことは書いてあるのですが、余剰分析がメインではないので伝わりにくいのですね。
普通の教科書だと最低賃金制の主な問題は失業だと考えてしまいます。
だからこのような意見が出ます。
http://ameblo.jp/hirohitorigoto/entry-12099586900.html
実現しようとすること自体こまったことですし、最低賃金は非常に低めるか無くすかするべきものです。

民主は最低賃金1000円の目標を掲げるのは結構なのですが、肝心の賃金を上昇させる青写真はきちんと描けていたのか?という話です。
実際時給は伸びていないわけですし、ノープラン、ただの思いつきだけの最低賃金1000円目標などとても賛成などできません。
もし無理に、最低賃金を1000円に引き上げたりでもしたら、1000円以下の生産性しかないと雇用主から判断された人は解雇されて、失業者が増大します。これではかえって景気が悪化してしまうのがオチですよね。

民主党批判は良いことなのでどんどんやっていただきたいと思いますが、仮に経済政策がうまくいって企業の売上が伸びていたとしても、機械の方が最低賃金1000円の労働者より得である状況になると失業が発生すると思います。機械と労働者の相対価格の問題ですね。
また、最低賃金労働者の失業が発生すると景気が悪くなる、という部分ですが、日本の就業者数6400万人のうち、最低賃金労働者は400万人で、失業するのはその中の一部ですから、失業によって景気が悪くなるという考え方は私は奇妙だと思います。因果関係が逆であるような気がします。

ただ、それよりも気になるのが、その年3%最低賃金を引き上げられる環境を作るために、何をするのかということですね。
一応アルバイトの時給は前年同月比で10月は1.7%増加しているものの、3%には届いていません。

この部分もおかしいですね。最低賃金を上回る人は最低賃金を上げようが下げようが影響を受けませんから、「最低賃金を引き上げられる環境」に、異なる賃金を受け取る労働者層は関係ないと思います。
ただ、このエントリの文脈だとアルバイトの平均時給にまで最低賃金を上げて良いと考えているようも読めます。
時給に差がついている理由は企業が労働者の生産性に差があると考えているところにあるはずなので、生産性の差を無視して最低賃金を上げると、景気がよくても最低賃金労働者は解雇されると思います。
こういうことって「経済の掟」のうちに入らないのでしょうか。

本気でGDP600兆円、最低賃金1000円を実現したいならば、消費増税凍結・減税の議論をぜひお願いします。

GDP600兆円は実現してほしいですし、消費増税にも反対ですが、最低賃金の引き上げなどを実施したら、景気拡大の果実から貧しい労働者を疎外してしまう危険性があることにお気づきになると良いと思います。

低賃金労働者が貧困層であるわけではない

このツイートは典型的な勘違い。


働いて受け取っているのが最低賃金であっても、その人は小遣い稼ぎのバイト学生かもしれないし、家計の足しがほしいパート主婦かもしれません。
実際、マンキューによればアメリカで最低賃金を受け取る層の中で貧困層は3分の1しかいないということですし、日本で2002年に行われた或る研究では、年収200万円以下の貧困層は9.8%しかいないという結果が出ています。その上、最低賃金労働者のうち最も多い世帯年収は500万以上であったとのこと。
つまり、日本ではアメリカよりも貧困層は遥かに少数派であるわけです。
最低賃金規制が倫理的に問題があるのは、労働市場におけるごく少数の最弱者を踏みつけにするからです。