消費者利益を考えない倒錯

価格と物価の区別を理解していない三橋貴明のエントリ批判でございます。連日連夜の批判ですが、連日連夜おかしなことを三橋貴明が書いているのですから仕方有りません。

お分かりでしょうが、わたくしは別に「インターネットの医薬品販売は、絶対にダメ!」などと言っているわけではありません。需要が拡大しない産業において、競争を激化させても「所得のパイ(GDP)」が増えるわけではなく、新規参入者が他者の所得のパイを奪うだけに過ぎず、所得を奪われた人々は消費や投資を減らし、デフレ促進効果がある、と言いたいだけです。
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/

インフレ・デフレというのは経済全体について言うものであって、ある産業のひとつの製品価格が下がったとしても、そんなものをデフレとは言いません。
ひとつの製品価格が下がったら、あまったお金を他の使い途にふりむけるだけなので、物価は下がりません。
また、薬品という一つの分野への需要を「GDP」などとは言いません。
GDPとは「国内総生産」のことです。
三橋の言い草はむちゃくちゃでございますな。

「1兆3千億円の市場など、マクロ(国民経済)から見れば、大したことがない」
 と思われた方がいるかも知れませんが、そもそもデフレ期に需要が拡大していない市場で「規制緩和」を平気で実施する「思想」「考え方」に問題があるのです。

いまは確かにデフレですが、需要は拡大しています。
2013年4月〜6月期の名目GDP成長率が年率換算で3.7%になった、ということは需要が拡大しているということです。
金融緩和で需要を拡大しながら規制緩和によって生産効率を上げると、名目GDP成長に占める生産の割合を増やすことができるのですから、実に正しい政策です。
これは経済思想的に正しく、教科書的とさえ言えます。
アベノミクスはむしろ、規制緩和への思い切りが足りないくらいです。

国民経済から見ると「小さな市場」であっても、そこで生業を立てている皆様は、わたくし達と同じ血が通った日本国民なのです。「需要>供給能力」になっているならばともかく、「需要<供給能力」で医薬品の価格競争が進んでいる環境で、何故にさらなる規制緩和を実施しなければならないのでしょうか。

それは勿論、病気や怪我で苦しむ人々の利便性のためです。
ここに三橋貴明の思想的倒錯が顕著に表れています。
言うまでもないことですが、薬とは病気や怪我で苦しむ人達を救うために存在します。
薬を売る人たちの大きな利益を確保するためではありません。
薬を売る人たちが皆ワーキングプアである、ということなら思いやりは必要ですが、薬を売る人たちはむしろ高所得層であるわけで、病気や怪我を負って、しかも貧乏、という人たちよりも政府が優遇する理由はないはずです。
三橋貴明の発想は常に「生産者の利益」の方を向いています。
「消費者の利益」を考えていません。
生産者の利益とは金銭で換算したものですが、消費者の利益は「モノやサービスを利用したときの効用、満足」です。
つまり、三橋貴明は常に「生産者がどれだけ金銭を儲けられるか」という視点でしか経済を考えておらず、このような考え方は「経世済民」とは言えません。
私たちにとって本質的なのは金銭ではなく、金銭を用いて得られる効用です。

三木谷氏は上記に不満を抱き(本当でしょうか?)、行政訴訟だの、産業競争力会議を辞めるだの息巻いていますが、一民間人(国会議員ではないという意味)の立場で、所得のパイが拡大しない市場(医薬品販売)の法律を変えさせ、「利益」を得る道を開いたわけですから、大成功じゃないですか。民主主義的には、明らかに問題がありますが。
 何しろ、「主権者」という立場を考えると、三木谷氏もわたくしも、もちろん読者の皆様も(国会議員の方除く)、同じ「一票」を持っているに過ぎません。別に、三木谷氏がわたくし達を超える「主権」を持っているわけではないのです。
 安倍政権の動きを見る限り、今後も上記の類の事例(民主主義をすっ飛ばしたレントシーキング)が頻発することになるでしょう。というわけで、極めて分かりやすい事例として、本件を記録に残しておきたいと思います。

三木谷氏は金融政策の価値を否定した人なので擁護する気持ちはさらさら有りませんが、三木谷氏の行為をレントシーキングと呼ぶのには無理があります。
薬品販売を規制緩和して、三木谷氏だけが儲かるならレントシーキングといえるでしょうが、ネットビジネスのライバル達にも一様に販売機会を開こうとしているのですから、三木谷氏だけが儲かるわけではありません。
規制緩和について意見を述べるのがレントシーキングであるなら、国会議員でない大学教授が公共事業の拡大を主張して、それに便乗する形で評論家が講演その他でカネを稼ぐのはレントシーキングとは言わないのでしょうか。