消費増税を強行した理由(陰謀論以外)

消費増税を2014年4月から行うという決定は、とても不審なものでした。
消費増税を1年先延ばしにしたところで、

  1. 財政に大した影響はない
  2. 社会保障制度に大した影響はない
  3. 増税ができなくなるわけでもない
  4. 国家の信認にも影響はない

という事情があるうえ、経済の調子は良くなるのですから、急いで増税する理由が思い浮かびません。
「外国勢力の差金ではないか?」「官僚は利権のために不況を望んでいるのではないか?」といった『陰謀論』が語られるのも無理はありません。
政策の決定には多くの人々が関わるので、これら『陰謀論』もおそらくは一部正しいと思うのですが、それでもどこかモヤモヤしたものが残ります。
そんな中、「消費税は社会保障の安定財源たり得ない」というタイトルの、鈴木亘教授のエントリを読んだことがきっかけとなり、「消費増税、しかも日銀も動かないようだし、目先を変えてミクロな知識*1の方も深めるか…」と考えて、久しぶりに鈴木教授の著作を拝読しました。

年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革

年金問題は解決できる! ―積立方式移行による抜本改革

この本を読み始めたのは偶然で、何気なく読み進めたのですが、あっと思うくだりを見つけてしまいました。

増税は揺るぎなく決定されていたのではないか?

年金問題は解決できる!」P59までの内容まとめ

  • 年金財政は5年に一度検証する。これを「財政検証」という。
  • 前回の財政検証は2009年2月実施、5月公表(麻生政権)。
  • そこでは、年金積立金は100年で均衡する=100年保つ、とした。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/gaiyou.pdf

  • しかしこのプランは消費増税が前提のものであった。
  • 2009年4月に基礎年金への税金投入割合を2分の1に増やしたが、その財源として消費増税分から1%を充てることが決められた(麻生政権)
  • これまで語られてきた、積立金枯渇や保険料引き上げの議論も、消費増税を前提としたうえでのものだった。
  • 2012年時点において、2009年の財政検証の想定よりも、積立金は-30兆円である。

最後の項目を見るとわかりますが、財政検証というのは「年金は大丈夫だ」という辻褄合わせを発表するものなのです。
厚労省の想定が非現実的に甘いので、実際の積立金残高は想定を30兆円も下回ることになっています。
さて、財政検証は5年に一度。
前回の財政検証は2009年。
次に辻褄合わせをやらなくてはならないのは何年でしょうか?

立金はあと20年で枯渇する

消費増税分1%を組み込んでも、今のペースでいくと20年後に積立金はなくなります。焼け石に水
消費増税しても年金積立金は保たないのですから、鈴木教授は、「年金を人質に消費増税をやむを得ないものとしたのだろう」と推測されています。
しかし、2013年5月10日の国会本会議で安倍首相は、厚労省の見解そのままを述べてしまっています。

二〇四二年以降の年金制度についてお尋ねがありました。
 年金制度については、今後の人口や社会経済状況について一定の前提を置いた上で、おおむね百年間で収支が均衡するように制度の設計を行っており、その上で、経済社会の変化に対応するため、定期的に財政検証を行うことで、長期的に持続可能な運営を担保しています。
 今後、御指摘のとおり、高齢者人口の増加と少子高齢化の進行が見込まれますが、社会保障・税一体改革の過程では、これまでの累次の改革により年金制度が長期的に運営できる仕組みとなっているとの認識を三党で共有しております。そのことは、当時の国会審議の中で、野田総理、岡田副総理からも答弁をしていただいております。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

実はこの答弁を私はネットの動画ニュースで見て、「なんて事を言うのだ」と思った記憶があります。
以下の動画の、1時間30秒あたりが該当部分です。

ご覧になると分かる通り、混乱して会が中断したあと、安倍首相は慌てた感じで上記の答弁を行っています。
この様子から見ると、官僚と急いで答弁をすりあわせた結果、厚労省の詭弁そのままの言質をうっかり与えてしまったのではないかと思うのですね。
つまり、2009年から5年目、麻生とのしがらみ、5月10日に与えた言質、といったものが相まって、かなり前から今回の消費増税を決めていたのではないかという推測が可能になるのです。
もちろん、真相はわかりません。
しかし、この推測が正しいとするなら、日本のために真摯に訴えを続けた人たちはいい面の皮だったな、と思わざるを得ません。

年金積立金の枯渇について。
年金積立金が枯渇することを、喩えとして「破綻」と言うことがありますが、積立金が無くなっても、税金(別に消費税でなくとも良い)・保険料・赤字国債で賄おうと思えばまかなえるので、「積立金枯渇によって餓死者続出」といった事態にはなりません。
それよりも消費増税によってマクロ経済を悪化させることを決定してしまったゆえに、税収が減り、保険料収入が減り、株価運用益が減ることになるので、年金財政はむしろ悪化していくでしょう。
実に酷い決定がなされたものです。
その帰結は私たち庶民が引き受けなくてはなりません。
高所得特権階級は、年金などなくても全く困らないのですから。

*1:年金問題がミクロなのかどうかよく分かりませんが…