粗雑なインフレ目標批判の問題点

安倍自民党の「インフレターゲット論」3つの問題点 | 冷泉彰彦 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
あくまで感想ですが、この筆者の論説は雑なことが多いと思います。論拠の取得に労力を払っていない印象です。

結果的に、仮に2013年の前半にハッキリした「ドル安政策の終わり」「人民元高の容認」というトレンドが出てきた時に、日本がジャブジャブと流動性を供給していたら、為替市場の圧力は想定の範囲を突き破って思い切り円安に振れるでしょう。激しい円安になれば、3%という「ターゲット」は簡単に突破されてしまうと見るべきです。

そんなに簡単に突破できるならデフレ脱却で苦労しません。
手当をする前にインフレ率が暴走してしまうような言い方をこの筆者はしていますが、それを防ぐためのインフレ目標であるということを読者に忘れさせようとしているようです。
インフレ・デフレは貨幣的現象なのですから、インフレ率が目標より上がりそうな気配があるなら貨幣供給量を減らすと宣言して、約束通り実際に減らし始めればよいだけです。

ですが、1990年から2009年まで、例えば小渕政権に代表されるように自民党は何度も何度も公共投資をやってきたわけです。にも関わらず、この20年はどう考えても「失われた20年」になっているというのは、要するに日本が「最先端の技術力と国際競争力を維持して、先進国の地位を維持する」という目的に適合した投資をしてこなかったからです。

確かに「財政政策=公共事業」と受け止められかねない現状ではありますが、安倍総裁のリフレ政策への見識の深さから言って、財政政策のやりようは色々あると弁えていらっしゃると思います。
しかし、何かの方針でまとまろうとすると様々な利害関係に配慮する必要もあります。
残念なことに、何の利得もないのに「公共心」だけであたかも志士のごとく動いてくれる人たちはほとんどいません。
私はその意味で、積極的ではないにせよ安倍総裁の方針に賛成しています。
リフレの根幹が保たれていれば支持する、という良い意味での妥協心がなければ、あたかも左翼のごとく四分五裂してしまい、何も達成できなくなってしまうでしょう。
ただ上記筆者が分かっていないのは、小渕政権の失敗は公共事業に頼ったからではなく、金融政策と併用する必要性を理解していなかったからです。
公共事業のために国債を発行すると金利が上がります。
金利が上がると円で投資することが有利になるために円が買われ、円高になります。
円高とは輸入に有利な状態ですから、日本国内の人々は輸入品を買ってしまうことによって、国内企業のモノやサービスへの需要が減ってしまうことになるのです。

3番目の問題は、仮に許容出来る範囲を越えて円安になった場合は、エネルギー政策が過渡期にあり、暫定的に大量の化石エネルギーの輸入を強いられている状況では、輸出産業に関しても円安メリットがエネルギーコスト高で相殺されてしまうということになります。

この主張だと、生産コストの大半がエネルギーコストであるように感じられてしまいます。
しかし生産コストの主要な部分は人件費なのですから、エネルギーコストが上昇しても円安メリットが相殺されるようなことにはなりません。
円安は海外から見ると日本の人件費の低下なのですから、なおさらです。

勿論、景気の回復は待ったなしです。ですが、今はインフレターゲット論などというギャンブルをする時期ではないと思います。

この言い方は印象操作です。
インフレ目標のどこがギャンブルなのか説明しましょう。
結論先にありきのレッテル貼りを反リフレ派が共通して用いるのは、そのようなマニュアルでも配られているのでしょうか?

対中関係を改善して景気の足を引っ張らないようにすること、エネルギー政策を早く「多様化」という方向で落ち着かせること、TPP(環太平洋経済連携協定)など自由貿易の枠組みに積極的になる中で競争力のある産業で着実に稼ぐことといった、地道な努力を積み上げるべきです。

対中関係が悪化して景気の足を引っ張っている、という意見は最近の新聞記事などで散見されますが、対中国への輸出が減少しているのは、欧州問題が大きいのではありませんか?
欧州は景気後退が始まっていますから、中国から欧州への輸出が減少しています。
中国が生産するための日本からの輸入が減っているのは、欧州危機が主な原因であるとも見ることができますし、そもそも中国が日本との領土問題を煽って中国人民の目を経済問題から逸らそうとしたのが、日中関係の悪化につながったのではないでしょうか。