ギリシャのユーロ離脱で破滅的事態は発生するのか…?

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120523/232517/?P=1
ギリシャはユーロ離脱しかない
ノリエリ・ルービニ  

  • ギリシャの競争力を回復させる第1の選択肢は、ユーロの価値を急落させることだ。だが、ドイツの競争力が強いこと、そしてECBが積極的な金融緩和を行っていないことから、ユーロの急落という選択肢はあり得ない。
  • 第2は、構造改革によって、賃金の伸びを上回る生産性の伸びを実現し、単位当たり労働コストを急速に下げることで競争力を回復させるという方法だ。だが、このシナリオも描きにくい。ドイツでさえ、こうした形による競争力の回復には10年かかったわけで、ギリシャがさらに10年にも及ぶ不況を耐え抜くことなどできない。
  • 通貨を引き下げる代わりに、物価及び賃金を引き下げて競争力の回復を図るという方法も、ギリシャを5年に及ぶ深刻な不況に追い込むだろう。
  • これら3つの選択肢の実現可能性がいずれも低い以上、残された道はユーロ圏からの離脱だけとなる。通貨を「ドラクマ」に戻し、その通貨価値が大幅に下落すれば、競争力と成長を急回復できるはずだ。もちろん、この離脱プロセスは生易しいものではなく、それはギリシャにとってだけでもない。
  • 最も打撃を被るのはユーロ圏中核諸国の金融機関で、大幅な自己資本の目減りに直面することになる。ギリシャの政府、銀行及び企業がユーロ建てで抱える対外債務は、一夜にして莫大な金額に膨れ上がることになるだろう。
  • だが、こうした問題は克服可能だ。2001年にドル建て債務の「ペソ化」に踏み切ったアルゼンチンがその好例だ。米国も1933年に同様のことを行ってドルを69%切り下げ、最終的には金本位制を放棄した。同様にユーロ建て債務の「ドラクマ化」は必要であるし、また不可避でもある。
  • ギリシャがユーロ圏を離脱すれば、その影響が飛び火し、ほかの国も深刻な危機に陥ると主張している人々がいるが、これは間違っている。
  • ギリシャがユーロを離脱するかどうかに関係なく、ユーロ圏の銀行は迅速に資本力を強化すべきだ。そのためには、EU全域で新たに資本を直接注入するプログラムが必要である。
  • 金融危機後のアイスランド及び過去20年における多くの新興国の経験は、通貨の名目価値の切り下げと秩序立った対外債務の再編や削減を行えば、債務の持続可能性や競争力及び成長を回復させられることを示している。
  • 誤解しないでほしいのは、たとえ秩序立ったものであっても、ギリシャのユーロ離脱は、経済的には厳しい痛みをもたらすという点だ。それでもギリシャ経済と社会が、無秩序な破綻への道をゆっくりと進んでいくのを見るよりも、はるかにましだ。