電子兵器カミカゼを制す


太平洋戦争 日本の敗因3 電子兵器「カミカゼ」を制す (角川文庫)

太平洋戦争 日本の敗因3 電子兵器「カミカゼ」を制す (角川文庫)

これも引用をしようとするとキリが無くなる書物。
特攻隊が主要なテーマというより、テクノロジーを追求し、それを積極的に取り入れる先見性と柔軟性を持ったアメリカに、日本海軍が完膚なきまでに叩きのめされた理由の一端を知ることができます。

私は一週間、GHQに呼ばれて尋問を受けました。その時『中島さん、あなたがいちばん戦争中困ったことは何でした』と聞かれたのです。それで『いちばん困ったのは、助手がみんな陸軍の兵隊に取られてしまったことだ。レーダーを研究する者が、戦争中にどんどん減ってしまったことだ』と答えました。質問していたアメリカ人たちは、科学者だったのですが、いちようにその答えに驚いていました。彼らにとっては、とても信じられないことだったのです。
とにかく、陸軍はひどかった。私の会社の研究所の技術者を、片っ端から召集してしまうのです。そして、この技術者に穴掘りをさせたのです。もともとアメリカにくらべて科学者、技術者の数は10分の1以下しかいないのですから、その中からまた穴掘りのために研究者をもっていってしまうのです。

太平洋戦争でレーダーがどれほど威力を発揮したかはこの本を読めばわかりますので、その後にこの発言を読むと絶句ものであります。
学徒動員で文系学生から召集したという話がありますが、本職の技術者を召集してしまうのでは意味が無い。
当時の日本はまるで一貫性のないグダグダな戦争をしたという一つの例ですね。

物量に負けたとよく言われますが…

単に物量でも負けることは初めからわかっていたこと。
そういう戦いを見通しもなく始めて、物量だけでなく兵器の質でも大幅に遅れをとったのでは負ける以外の道がなかったわけです。
そればかりか、兵器の質で遅れをとった背景には、思想的な劣等性があります。
アメリカの指導層には自分の専門外あるいは未知のテクノロジーの持つ可能性・必要性を悟るだけの教養・柔軟性があったからこそ、この本で紹介されているような新兵器が開発され、活用され得たのです。
政治家だけでなく軍人であっても、それだけの度量があった。
狭量で脆弱な人間は、自分の専門とするものしか理解できないし、それ以外のものは必要がないと思いたがります。
自分のわからないものに活躍されると自分の価値が下がるとしか思えないのですね。
異質であるが優れた人間・物に対して敵意を抱き、本来の目的を忘れて妨害に励むという現象は太平洋戦争に関して広範に観察できます。
日露戦争の際にも森鴎外が麦飯禁止令を出して脚気患者を続出させ、3万人近い兵士を死なせましたが、この手のメンタリティが連綿と受け継がれていたことがよくわかります。決して森鴎外個人の特殊性ではなかったわけです。
他にも、アメリカは航空機の防御を充実させた上、撃墜されて脱出したパイロットを潜水艦で救助する体制をとることで伸び伸びと攻撃的になれるように計らっていました。
日本軍のゼロ戦はもともと防御力が無きに等しいものだったのに加えて、城英一郎少将と大西瀧治郎中将によって特攻が発案されるという具合。
戦略・科学技術への理解の拙劣さに加えて、人間心理や人材の磨耗が軍や社会へ与える影響への洞察も劣っていたのです。
世間では「文化には優劣はなく平等である」という奇麗事が語られますが、この考え方は間違っていると強く思います。
日本は広く文化的に劣っていたから徹底的に負けたのだと思います。
そしてその文化を私自身も共有しており、当事者として克服に努めるべきなのだと感じました。