ラブクラフト作品の背景


H. P. Lovecraft - Wikipedia
幾人かの批評家たちによって、ラブクラフト作品は3つのカテゴリーに分けられている。ラブクラフト自身はこれらのカテゴリーについて言及していないが、かつて「私の作品にはポー的なものやダンセイニ的なものはあるのだが・・・いかにもラブクラフト的な作品はどこにあるんだろう」と書き残している。

マカーブレ系(大体1905年〜1920年にかけて)(不気味な、死(死神)を扱う内容)

ドリーム・サイクル系(1920年〜1927年にかけて)(夢の世界を扱う内容)

クトゥルフ神話体系(1925年〜1935年)

ネクロノミコン」(ラブクラフトの架空した書物)や「神々」がたびたび登場することを挙げて、ドリーム・サイクル系とクトゥルフ神話にほとんど違いはないとする批評家もいる。最もよくなされる説明というのは、ドリーム・サイクル系はファンタジーの部分がより大きく、クトゥルフ神話はSFの要素がより大きいとするものである。

ラブクラフト作品の大半は、彼の見た悪夢にじかに触発されており、彼の作品が長く反響をよび、人気がありつづける理由は、無意識への洞察と、その洞察の象徴的表現にあるのではないだろうか。

こういった関心は、エドガー・アラン・ポー作品へラブクラフトが深く傾倒していたことに自ずと向けられる。ポーの作品はラブクラフトの初期作品のマカーブレ系の話や文体に大きく影響を与えている。

ダンセイニ卿の作品に出会ったことでラブクラフトの作品は新しい方向へと向かい、「ドリームランド」の設定で書かれた一連の、模倣的なファンタジー作品が生まれた。これはおそらくアーサー・マッケン作品の、古代の魔物の生き残りについて注意深く構築された物語と現実の背後に潜む謎に関するマッケンの神秘主義的な信念とに影響されたもので、1923年以降にラブクラフトが独自のスタイルを持つことの助けになった。

遥かな古代の神話に暗示されている、人類の登場以前から存在する異次元宇宙からの神々とおぞましい存在という、今日クトゥルフ神話と呼ばれている作品が邪悪な雰囲気を帯びているのはマッケン作品の内容に影響されている。

クトゥルフ神話のもつ馴染みのない不思議な表現形式は、ヒエロニムス・ボスの絵画に影響されたのかもしれないし、ボスの絵画にはその手の不思議さが確かに示されている。

クトゥルフ神話」という言葉はラブクラフトの死後に、文通相手で友人の作家であったオーガスト・ダーレスが作ったものである。ラブクラフトは彼の作った人工的な神話体系を「ヨグ・ソトース話(ヨグ・ソトース類)」と冗談めかして読んでいる。

彼の小説はあらゆるホラー小説の中でも、他の作家が着想を得る際の仕掛けとして最も影響力をもつものの一つを作り上げた。ネクロノミコンである。これは狂気のアラブ・アブドゥル・アルハザードによって書かれた秘密の魔道書である。クトゥルフ神話の構想が持つ他の作家にも筆を取らせる共振力や、その説得力の故に、ある人々はラブクラフトが実在する神話に基づいてクトゥルフ神話を書いたのだと信じ、ネクロノミコン偽書も長年にわたって出版されてきた。

ラブクラフトの文章は、古めかしさを好むような雰囲気がある。彼の時代には既に新しい言葉に置き換えられているような古めかしい言葉やつづりをラブクラフトはしばしば用いた。例えば、「電気たいまつ」(懐中電灯)、「エスキモー」、「コマンチ族」など。彼は「エルドリッチ(不気味な)」「ルーゴウス(しわのある)」「ノイサム(不快な)」「スクウェイマス(うろこでおおわれた)」「サイクロピアン(巨石積みの)」といった耳慣れない形容詞を使うことを好んだり、不適当だと批判されるような方言を文字にしてみることを好んだ。彼の作品はまた、英国式英語が特徴であり(彼は英国びいきとして知られる)、「完全な」とか「ちょうちん」という言葉を古い書き方ですることがたまにあった。

ラブクラフトは手紙をたくさん書く作家であり、彼の文通仲間たちに対して何ページもの手紙を小さな手書き文字で書いた。彼は手紙の日付を200年も前のものにすることがあり、これは彼の英国びいきの心情が傷つけられずにすむアメリカ革命より以前の、英国の植民地時代のアメリカの時代へさかのぼる意味だったのだろう。彼は18世紀と20世紀が一番良い時代だとしており、18世紀は貴族的に優雅な時代であり、20世紀は科学が発展した時代だからだと説明した。彼の意見では、19世紀、特にビクトリア女王の時代は「誤った」時代だったということだ。