2016年:停滞の年、財政出動の弊害
景気回復のためには全く必要のない財政出動を、2015年末から大々的に宣伝、宣言して始められた2016年の経済政策ですが、ふつうに予測できる通りに失敗しました。
補正予算が執行される時期になると、例年のごとく生産が低下し、財政出動が続くのにちょうどあてはまる期間である半年間、停滞しました。
10〜12月期はトランプ相場の影響で生産が伸びるかもしれませんが、それも金融市場の好転によるものであり、財政出動とは何の関係もありません。
なにがなんでも財政出動
今年の経済政策はいいところが見当たらないので何も書きようがありませんが、安倍政権やリフレ系のように「財政政策をやる」という方針を、どんな失敗があろうが変えず、クルーグマン氏、スティグリッツ氏、バーナンキ氏、シムズ氏と「財金併用」を唱える権威ばかり呼んで同じことばかり宣伝させる人たちに対しては経済学に根差した批判をしても全く無意味であると分かりました。
これは経済学の問題ではなく、政治学の問題です。
安倍政権とリフレ系がやっているのは、既定の政策の正当性をアピールするための作業に過ぎないので、どんな批判があろうが弊害があろうが関係ないのであります。
アメリカだのみ
そんな調子で経済政策が行われる日本経済は、自律的な成長をしていくのが難しく、アメリカだのみになるでしょう。
トランプ経済がうまくいけばおこぼれが頂戴できますし、期待されたほどでなければ円高株安で低調になるだろうと思います。
いずれにせよ日本の政策は「財金併用」しかないので、財政政策による金利上昇圧力のもとで大した進展は見られないでしょう。
ヘリコプターマネー
財金併用の極致として、ギャンブル的な高成長を夢見る人たちからはヘリコプターマネーが再度持て囃されるようになっていますが、大変危険な政策だと言っておきましょう。
ヘリコプターマネーは効果は上がるでしょうが、財政政策も金融政策も政治家が決めてしまう、歯止めのない政策です。
法律で歯止めをしようとしても、法律をつくる主体は政治家なのですから、いくらでもお手盛りができます。
日本のように巨額の政府債務を抱えた国が、ヘリマネでその場しのぎができるようになれば、債務の問題に取り組まなくなるのは当然の成り行きであります。
その先にはジンバブエやベネズエラのような悪性インフレが待ち構えています。
FTPLが想定しているような財政インフレが発生すると日銀には何もできません。
ほどほどでいいんじゃない?
指標を見るに明らかに有害であるのに財政政策が野放しになっていたり、やぶれかぶれでヘリマネが提案されたりするような現実を見ていると、それよりは今のような微温湯的景気の方がマシなのではないかとも考えます。
今くらいの景気でも大半の人には仕事があり、日本人の生活水準は先進国の中では大したことはありませんが、グローバルな視点から見れば最上位層にあるわけで、これ以上躍起になって成長する必要はないのではないか。
日本が強く成長しなければならない理由があるか強いて考えてみると、
- 巨額の政府債務への対処
- 軍事的脅威への対処
くらいしか思いつきません。
これらの問題に本気で対処する気があるなら、既定路線なんぞ作らずに最善の経済政策を追求しなくてはならないはずですが、そうはしていないところをみると、建前はどうあれ実際には財政再建も防衛力強化も本気で考えているわけではないのかもしれません。
特に財政再建について財務省は本気でやる気があるのか、やるならどのような状態を「財政再建」ととらえているのかが気になります。*1
一番良いのはもちろん、政府債務の残高を減らすことですが、もし財務省が、「債務が持続可能であれば良い」と考えているとなると庶民にとっては、最悪ではないにしても良いことではありません。
政府債務は政府に金をかした側から見ると資産です。
政府の利払いは現在のところ毎年10兆円にのぼりますが、このうち半分は銀行や保険会社などの金融機関に入ります。
いまのインフレ率はゼロかマイナスですから、この利払い分はまるまる実質的な収入になります
利払いの原資はもちろん私たちの税金です。
「財政再建」が「政府債務の持続可能」を意味するとなると、これから未来永劫、私たちは税金で金融業界のような元々富裕な層に多額の不労所得を得させるために税金を払い続けなくてはならなくなります。
政府債務が持続可能であるということは、どんどんその元本は増えていきます。
増えれば増えるほど利払いは増加します。
それは政府の予算を圧迫しますから、公共サービスのための予算を削って利払いが行われます。
つまり、私たちは金融機関のために、上昇していく税金を払い、社会保障のような公共サービスの受け取りを減らされていくことになるわけです。
実際、安倍政権はすでに「財政再建」のために公共サービスを削り始めています。
リフレ系が「政府債務はチャラになる」とウソをまき散らしていますが、そんな手段は存在しません。
政府債務は、
- 税金でまかなう
- インフレでまかなう
- 公共サービス削減でまかなう
のいずれかで国民が負担する以外ありません。
このような不快な現実を忘れさせ、誤った方向に大衆を扇動する役割を仰せつかっているのがリフレ系であります。
日本の過去を鑑みるに、そのような扇動にのって破滅した過去がありますが、昨今の雰囲気はとてもそれに似てきたと思います。
財政がいまや知行国制や荘園制のような庶民を搾取する制度になっており、格差拡大装置となっていることに多くの人が気づくことが必要ですが、その見込みは大変厳しいと言えましょう。
ディストピア化の不安を語りながら〆るのも奇妙な持っていきかたですが、今はとりあえず皆さま、良いお年をお過ごしくださいませ。