財政政策の節度

財政政策は足し算引き算の世界なので納得しやすいのか、無条件に賛成する人が多いです。
世間の人たちはややこしい人がさほどいないのか、特に根拠がなくても財政政策が景気をよくするという前提から話を始めて問題を感じないようです。
メディアで財政政策を称揚する人たちは、それが仕事の一部ですから止めることはないでしょう。
普通の会社や個人業主が営業活動をするのと同じです。
そういうことをいくら否定しても、当事者は生活や自己実現のために営業活動が必要なのですから、無駄なことであります。
自由な社会では他人を害さない限り何をやっても良いのですから、財政政策が景気に効く証拠がなくても称揚して構わないのであります。
(多くの場合、財政政策が生産を増やすということと、財政政策が景気を良くするということが混同されています。この二つは似ていますが異なります。)
その意味では、補正予算が3兆円とか5兆円とかいうレベルであれば、いかに財政政策が無駄で、特権的な人びとだけを潤す不公平なもので、市場メカニズムを無視することで非効率を生むものであっても、まあまあ許容されて良いのだろうと思います。
人間のやることは大抵いい加減なものですし。
しかし、補正予算が10兆円を超えるとなると話は別です。
この路線はもう既定なのでしょうが、そんなに財政出動してしまうと政府債務は増加し、プライマリーバランスの均衡が遠のきます。
世の中にはなんの根拠もなく「プライマリーバランスの均衡は要らない」という人が増えてきましたが、非常に危険なことだと思います。
プライマリーバランスを無視して債務を増加させるレベルの財政出動を煽ることが通常になってしまいますと、当然のことながら債務は発散します。
忘れられていることですが、財政政策は支出を続けない限り効果が出ません。
産出ギャップを埋めるのに、或いは総需要を増やすのには財政政策しかない、という主張が正しいとなると、財政出動を永遠に続けなくてはならなくなります。
現実にはそんなことはなく、金融政策だけで総需要は増え、産出ギャップも埋まります。
欧米では緊縮財政と金融緩和の組み合わせによって、現に総需要を増やし、産出ギャップを埋めています。
また、日本に政府債務問題が無いだとか財政破綻はありえないだとか主張する人も多くなってきましたが、そんなことはありません。
人間は困ったときほど希望的観測に縋ってしまうものですが、日本には債務問題があります。
景気対策と称して財政政策に依存して債務を累積させてしまうと、金融政策の効果によって景気が良くなったときに金利が上昇するということを忘れています。
フリーランチがあるのは完全雇用状態になるまでの話で、そこからはもう日銀による国債買い入れの増加はありませんし、金利の上昇によって政府債務の利払いが増加します。
それで破綻するとはいいません。景気がよくなったときに名目GDPの成長率の方が上回っていれば破綻はしません。
しかし、利払いはどうしても発生しますし、景気がよくなった状態では債務のGDP比率を減らしていくことが志向されるはずで、その状態でも債務をさらに増やすことは有り得ないわけですから、予算にしめる利払いの比率は高くても甘んじて受けるしかありません。
景気が良くなったときに予算にしめる利払いの比率をできるだけ下げ、社会の便益のための支出(本来の財政の役割であり、「景気対策」など財政の役割ではありませんが)を少しでもますためには、政府債務を減らしておくことが必要になります。
そんな都合の良いことができるのかって?
できるのですよね。
現在の欧米でも小泉政権期の日本でも、緊縮財政と金融緩和の組み合わせで経済を拡大することに成功しているのですから。
そのような願ってもない実例があるにも関わらず、債務を増加させるような財政出動を行うなどというのは非合理の極みであり、社会に有害な影響を与えるが故に私は賛成できないのです。