「600兆円」は現状、NGDPLTにあらず

名目GDP水準目標の導入を政権が意識しているということなら素晴らしいと思いますが、現状ではNGDPLTではないですね。
これを導入しようとすると、将来の名目成長率の予想に根ざして金融政策をやることになりますが、インフレ目標で参考にしているブレークイーブンインフレ率に当たる仕組みがありません。
日銀と政府、民間エコノミストの名目成長予想しかなく、市場による予想をする仕組みがない状態では、導入は無理でしょう。
本気で導入するなら、それなりの仕組みを作らないと、信じてもらえないですね。
あるリフレ派や山本幸三氏は、「600兆円」がNGDPLTであり、その肝は財政政策などと述べていますが、適当すぎて呆れてしまいます。彼らは要するに、「NGDPLTも既存のリフレ政策の範疇で出来る」と我田引水したいだけです。
このあたりについては、このごろリフレ派から批判を浴びがちな黒田総裁の見解の方が妥当だと思われます。

しかし、黒田総裁は内閣府の推計で、デフレ脱却し、成長戦略による実質GDP成長率引き上げに成功した場合、2020年度近辺で600兆円を達成する試算になっていることを説明。「それを実現するうえで、デフレ脱却し消費者物価指数(CPI)2%の目標を安定的に実現するという現在の金融政策の目的あるいは目標が、当然入っていると理解している」と述べた。
http://jp.reuters.com/article/2015/09/28/kuroda-presser-idJPKCN0RS0ZA20150928

黒田総裁はここで、

  1. 名目成長を達成する助けになるのは成長戦略(ミクロ政策)である。
  2. 金融政策はインフレ目標を継続する。

と述べています。
名目GDPを上げるのが大切だとしても、潜在成長率を伸ばさないとGDPは伸びていきにくいですし、内訳がインフレ率中心だと国民の生活水準があまり向上しませんから、ミクロ政策で生産性を上げるという考えが出てきます。
黒田総裁が「NGDPLT」という掛け声に乗っからないのは当然で、インフレ率目標ですらなかなか想定通りには達成できないのに、インフレ水準目標でもなく、名目GDP率目標でもなく、名目GDP水準目標を実施する、なんていうのはハードルを上げすぎだ、と考えるでしょう。
外野にいる私などは、「いや、必要な仕組みをつくってどんどんチャレンジしたらいいし、世界初の試みに成功したら歴史に名が残りますよ」と言いたくなりますが、実際に責任をもって実行しなくてはならないのは黒田岩田日銀ですし、他人の足を引っ張って、とにかく新しいことは止めろ止めろと言いたがる人で充満している日本社会では、そういうチャレンジに踏み出すのは難しいでしょう。
どこかの国が実施してくれて、それに追従していくのが日本では現実的なんだろうと思います。