アベノミクス否定の根底には消費増税賛成

2014-11-09 - カンタンな答 - 難しい問題には常に簡単な、しかし間違った答が存在する
まず問題なのは、私ごときをリフレ派の典型のように書いている点であります。
だいたいリフレ派というのは専門家を指すのであって、私のようなブロガーはせいぜいリフレ支持者と呼ばなければいけません。
次に、リフレ派といっても相当に幅があるので、誰かを取り出して代表させるのは結構むずかしい。
私の書いてきたことをふまえると、リフレ的な考え方の主流とは言えないので、典型扱いするのは尚更問題があります。
金融政策をある程度知っているなら、それはすぐに分かることです。

まず円安になると短期的には輸出量が増えなくても利益が増大するのは確かで、それが「ドルの受け取りが増えているから」であることも間違ってはいないが、それだけでは期待していたほどの効果は得られない。ドル建ての輸出額はドル建ての輸入額より少なく、円安になる事で輸出業者が円建てで受け取る額が増えてもそれ以上に輸入業者が円建てで支払う額が増えるだけだからである。

前のエントリで私が書いた「いくらでもこねられる理屈」がこれ。
私が重視するのは事実。次のような。

トヨタ、最高益2兆円予想…円安でさらに増加も
2014年11月05日 19時26分
 トヨタ自動車は5日、想定を上回る円安の進行と、北米での販売好調を受け、2015年3月期連結決算(米国会計基準)の通期予想を上方修正すると発表した。
【略】
 売上高は想定より8000億円多い26兆5000億円と、7年ぶりに最高になる見通しだ。小平信因のぶより副社長は5日の記者会見で、「為替が円安方向に進んだことが大きな要因」と説明した。
 予想の前提として、トヨタは10月〜来年3月の平均為替レートを1ドル=105円とみている。現在は1ドル=114円台で推移しており、業績がさらに押し上げられる可能性がある。
2014年11月05日 19時26分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

「こうなる可能性もある、ああなる可能性もある」という理屈は無意味。そんなのはいくらでも言えます。

一方、輸出量が増えれば、より多くの生産を行なうために雇用を増やす必要が出てくるし、さらなる増産のための設備投資も誘発されるわけで、当然こちらの方が日本経済にとっては望ましい。 

輸出の方が輸入より好ましい、という言説は喩えるなら、「八百屋は野菜を売る方が野菜を仕入れるより好ましい」というくらいにどうかしている。
必要なものを輸入して、私たちは豊かに生活できているという自覚がないわけね。

単に円が減価した事によって一部輸出企業の利益が増大するだけでは、それらの企業の株価は上がるかもしれないし、若干の雇用・設備投資増もあるかもしれないが、輸出量が増える場合と比べれば経済への波及効果ははるかに限定的となってしまう。 トリクルダウンが進まないわけである。 

反論する場合には相手の書いたエントリを読みましょう。
輸出量が増えるかどうかは相手国の人々が製品を買えるかどうかにも依存しているのですから、いくらこちらが「売りたい、売らなければならない」と頑張ったところで意味ないです。いくら批判的に論じても意味ないです。

ちなみに、「円安で輸出量が伸びるという想定がまず間違い。この点は安倍首相も菅官房長官も間違っている」と書いているが、黒田日銀総裁もつい先日「円安は輸出企業の輸出数量の増加につながる」と言っており、この人に言わせると安倍首相も菅官房長官も黒田日銀総裁もみんな間違っているようだ。

「つながりうる」のと「つながる」のは違います。
黒田総裁が「つながる」と断言したなら、それは間違いですね。
数字的には輸出は伸びてます。
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2014_4-9.pdf
個人的にはこれだけ伸びているなら別に問題ないだろう、と思いますし、貿易赤字はどうでもいいのですが、安倍首相や黒田総裁の目からは不十分なのでしょう。
で、私はそのように考えていること自体が間違いだと言っているわけです。
安倍首相や菅官房長官や黒田総裁が、どれほど有名で、社会的地位が高く、学歴があったとしても、間違いは間違いです。
逆に訊きたいのですが、日本が為替安になったとして、相手国が製品を買う力がないのに、或いはお金はあってもそんなにたくさんの製品は要らないと考えているのに、どうやって買わせるのですか?

ちなみに黒田日銀総裁も「非製造業の収益や家計の実質所得の押し下げ圧力につながる面もある」と認めているし、政府も「急激な円安を受け、地方や低所得者に重点を置いた対策を講じる方針(参照)」らしい。 もちろん緊急対策の主眼はカップラーメンの値上がりではない。

このへん歯切れが悪いのでよく把握できないのですが、実質賃金とか実質所得とか、それだけ見ても何もわかりません。
消費税の影響で可処分所得が減る場合、消費が大幅に減るので問題があります。
しかし、新たに雇用される人が増えて実質賃金が下がる場合、人々の可処分所得は増えるのでそれは良いことであります。
政府が円安の影響への対策を講じるとのことですが、それは金融緩和政策の擁護につながるので結構なことだと思います。燃料代が上昇して嫌がっている漁師さんたちに燃料代を補助して差し上げるといったことはやれば良いでしょう。
ある種の人々に対して金融政策はマイナスに働くでしょうが、日本経済全体にはプラスに働いているのですから、円安対策といった財政政策でバランスを取りながら進んでいくのは、まっとうな考え方だと思います。

いずれにしろ今回の場合はデータを見る限り「輸入量が減少して内需に切り替わっている」という兆候は今のところ見えない。

え、私はそんなことは書いていませんよ。
輸入品の価格が高くなると国産品が選ばれやすくなる、と書いたのです。量の調節にまでは言及していません。

日本は石油・ガスを筆頭に鉱物資源を殆ど海外に依存しており、更に40%を下回る食料自給率が示すように生活に必須の食料資源も輸入に頼らざる得ない。つまりシェール革命後の米国のように資源の多くが自前で賄えるような状況であればともかく、生活に必須の資源の多くを海外からの輸入に頼っている以上、円安によるデメリットが存在する事は避けられず、それを上回るメリットが存在しない限り、円安が「経済を活性化させる事が明らか」とまでは言えないことになる。 つまり本当に「これが出来るのは」アメリカくらいということになる。

これについては別のエントリに書いたのですが、こういう単純な理屈では経済は説明できないです。
この間の報道では、鉄鋼の利益が15%ほど上昇しているらしいのですが、皆さんご存知のとおり、鉄鋼の原料のほとんどを日本は輸入しています。鉄鋼を作る際のエネルギーももちろん、ほとんど輸入です。
単純な理屈で考えると利幅は圧迫されて不利になるはずですが、実際には利益が伸びています。
また、これは単純な話ですが、アベノミクス開始以来の円安で、日本の経済は活発化しています。つまりそれは円安のメリットがデメリットを上回っているということです。
重要なのはそのメリットが貿易だけではないということです。

リフレ派は「バブル崩壊後の対策を日銀が間違えてデフレという落とし穴に嵌ってしまった事がその後の失われた20年の原因となった」と批判していたが、ユーロ圏では金融緩和によってインフレ率をとりあえず維持する事には成功した。 日銀批判が正しければ、デフレに陥った事が失われた20年の主たる原因であったはずであり、つまりデフレに陥らせなかったことでユーロ圏はそれを回避できたはずだったが、現実にはそうはならず、低成長下でじわじわとインフレ率を下げ続けてきている。 これは逆を返せば金融政策の失敗でデフレに陥った事が低成長化の原因ではなく、低成長化を引き起こす原因が他にあって、金融政策で一時的にインフレ率を維持してもその根本原因を取り除かないと結局低成長化して、インフレ率もそれに連動して下がってしまうということと捕らえる事が出来る、というのが前回のエントリーで書いた事であるが、どうもこの批判者の方には伝わっていなかったようである。

ちゃんと伝わってますよ。
理解した上で間違っていると申し上げているのです。
ユーロ圏はリーマンショックのあとに金融緩和しましたが、その後、金融引き締めにはしってしまいました。この辺はニュースや経済学者のコラムで指摘されているとおりです。
http://www.evojapan.com/market/pdf/ECR140624.pdf
金融緩和しているのにインフレ率が下がったのではなく、金融引き締めをしたから下がったのです。
データを見ましたか?
前のエントリにも書いたのですが、「低成長」とは何のことですか?
ここをはっきりさせて下さい。重要です。

上でも書いたとおり円安による影響を強く受ける資源の輸入価格は日本国内の需要減に大きく左右される事はないから、円安を更に進めれば輸入物価が上がるのは誤認しようがない事実。 

誤認しようのある事実。実際、誤認している。
輸入している資源価格は日本の需要減に左右されない、という点にも疑問はありますが、まぁ実際問題、日本とは関係ない理由で原油価格は現在低下していますね。
円安にしても原油が勝手に下がってくれているなら、それを原因とした輸入物価上昇はありませんね。

そもそもインフレが一時的に上昇しても翌年には又需要減によるインフレ率の低下が心配されるのだとしたら「インフレにしさえすれば需要が増える」という話はなんだったのか、ということになるわけだが、不思議に思わないのだろうか??

さあ、出ました。典型的な誤認であります。
逆に尋ねたいのですが、インフレにするとどうして需要が増えるのですか?
誰がそんなことを言っているのですか?
インフレにすると需要が増えるなんて、いくら考えても分かりません。
そんな言説に賛成したことはありませんし、これからもありません。
このブログ主の文章が不思議なのは、「需要減によるインフレ率の低下が心配されるのだとしたら」と書いた直後に、「インフレにしさえすれば需要が増える」と書くという、因果関係を真逆にした繋ぎ方をしている点で、どういう思考プロセスを経たらまったく矛盾する内容が直結するのか私には全然分かりません。

完全雇用かどうかの目安となる日本の構造失業率は3%台半ばとされており、既にこの水準に到達していることは黒田日銀総裁岩田規久男副総裁も含め多くの当局者も認めているわけだが、新聞を読まないのだろうか? 

当然知っているわけですが、黒田総裁のその発言には批判もたくさん出ましたよ。ただ、マスコミはそういうことを報じないので知らないでしょうが。これは知らなくても仕方ない。
またまた黒田批判になってしまうようで、傲慢極まりなくて申し訳ないのですが、日本の構造失業率が3%半ばなどというのは高すぎて有り得ないです。以前の日本は2%台が普通でしたし、現在も就業者が増え続けているのに構造失業率に達しているはずがありません。
構造失業率に達していながら就業者を無理やり増やしているなら、賃金はもっと速く上昇し、インフレ率も上がるでしょう。
また、ブログ主が引用している岩田副総裁の発言では、「3%台前半」となっていますね。
その記事はさりげなく、黒田総裁と岩田副総裁の認識が異なることを伝えていることを読み取らなければいけません。

結局、リフレ派によってプロパガンダ的に主張されてきた「おはなし」ではインフレになれば景気はよくなるんだから、金融政策はマイルドインフレ(2%)を維持しさえすれば良いとされてきたわけだが、現実にはインフレ率があがっても景気が回復しないシチュエーションは(上述のユーロ圏の例のように)いくらでもありうる。 

再度申し上げますが、「インフレになれば景気がよくなる」と言っているリフレ派は存在しません。あなたがどういうわけかそういう理解をしているだけ。池田信夫の記事でも読みましたか。
また、ユーロ圏は金融引き締めでインフレ率が低下しているので、そこも事実誤認。

つまりインフレ率は2%に達したが、実質成長は0.5%程度しかなく、名目成長が2.5%にしかならないようなケース

いや、それはさすがにないでしょ。理屈で考えすぎ。
いくら自説の正当化のためとはいえ、こじつけがすぎる。
デフレ下の日本でも実質成長は1%くらいありましたから。
日本の経済成長率の推移 - 世界経済のネタ帳

日本の場合は現実問題としては名目成長がどうこうというような問題より財政的な問題でこのようなケースで金融緩和を緩めることは難しいと思われるが、ここで下手を打てば金融緩和はやめる事ができず、円安・インフレはどんどん進むが実質成長はなかなか改善しないという状況に落ち込むことになる。

金融緩和をしているのは財政問題とは関係ないですわ。
実際、財政赤字をものともしないで歳出拡大してますわな。
私はそういうことには反対なんですけど。
また、金融緩和をやめられないということはありません。
アメリカも巨額の政府債務を抱えていますが、QE3の終了をあっさり宣言しましたわな。

ちなみにこの人は名目成長率を目標とすべきという主張であるようだが、これは経済が停滞に向かおうとしているときにはインフレ率を平時より高めにすべきという主張であり、自ずと経済活動の停滞と高めのインフレ率という組み合わせが生じるわけだが理解しているのだろうか?

あ、ここは合っている。
もちろん理解していますし、それが良いと言っているのです。
名目成長率を目標にすると、実質成長が高いときにはインフレ率を低めに、実質成長が低いときにはインフレ率を高めにするような金融政策を運営することになり、経済が安定します。
この主張に反対するとなると、実質成長が高いときにインフレ率を高めに、実質成長が低いときにはインフレ率を低めにする政策をとるということになり、前者は悪性インフレ、後者はデフレに陥ります。
それでいいのですかね。理解していますか?

筆者は消費税増税はやむなしだったと思っているが、残念なのは消費税増税なしでアベノミクス、或いはリフレ政策がどのような結末を迎えたかを見る事が出来なかった事である。まあ「怖いもの見たさ」的な残念さだから、見れなくて良かったのかもしれないが、

お、本音が出ましたね。
アベノミクスを否定する根底には消費増税賛成があったわけですね。
ああいうエントリをお書きになった理由がよくわかりました。