ニューディールは金融政策です

懲りない人が「ニューディールは財政政策である」という、歴史や政経の高校教科書みたいなことを書いていたので正しておきましょう。

ーズベルトの金融政策

http://beckworthlover.blogspot.jp/2011/05/qe.html
ルーズベルトの行動はこんな感じ。

  • 危機以前の物価水準に戻すことを人々に対して宣言(物価水準目標。物価上昇への『期待』の醸成)
  • 大量の債券を購入するよう、FEDに催促
  • 政府紙幣の発行を可能に
  • 金1オンス=20.67ドルから金1オンス=35ドルへの平価切り下げ(おカネの価値を下げた)

大恐慌に関するローマー博士の見解。
http://beckworthlover.blogspot.jp/2013/01/c.html

  • 財政政策はあまり行われなかった。
  • 大恐慌を終わらせたのはマネタリー要因である。

ルーズベルト政権下でマネーサプライ(マネーストック)が急増しました。

  • 欧州の政治情勢と平価切り下げによって、アメリカに金が大量に流入
  • それによって増えるマネタリーベースを減らさなかった(非不胎化)

ルーグマンが正統派経済学を否定!?

一方、懲りない人による記事にはびっくりするようなくだりが…

 あるいは、同じくノーベル経済学賞を取ったクルーグマンは、2013年1月『ニューヨーク・タイムズ』紙上にて、安倍総理が断行したアベノミクスの「第二の矢」として決定した10兆円超の財政出動を高く評価しつつ、「長期不況からの脱却が非常に困難であることは確かであるが、それは主として、為政者に大胆な政策の必要性を理解させるのが難しいからだ」と述べている。まさに、国会で財政政策や公共投資の必要論を主張する筆者等を「揶揄」するような発言を繰り返す政治家たちこそが、「長期不況からの脱却」を妨げている諸悪の根源だと指摘しているのである。
 しかもクルーグマンは同コラムにて、そうした政治家や経済学界の多くの学者たちが信じ込んでいる経済学を、「悪しき正統派経済学」と断じている。そして「世界の先進各国の経済政策は麻痺したままだ。これは皆、正統派経済学のくだらない思い込みのせいなのだ」と述べ、そんな悪しき正統派経済学と「決別」することこそが、デフレ脱却において必要なのだと論じている。
http://shuchi.php.co.jp/article/2018?

ここ、かなり疑問があります。
クルーグマン教授が本当に「正統派経済学」を否定しているのでしょうか?もしそうなら、クルーグマン教授は正統な経済学者ではないということになってしまいますが、氏は教科書も書いているくらいなのに、そんなことがあるのでしょうか。
こういう時には原文を見ないと…
Japan Steps Out

For three years economic policy throughout the advanced world has been paralyzed, despite high unemployment, by a dismal orthodoxy. Every suggestion of action to create jobs has been shot down with warnings of dire consequences. If we spend more, the Very Serious People say, the bond markets will punish us. If we print more money, inflation will soar. Nothing should be done because nothing can be done, except ever harsher austerity, which will someday, somehow, be rewarded.

不定冠詞がついている「orthodoxy」という言葉を「正統派経済学」と訳していいんでしょうか。
それにここで言及されている「orthodoxy」は、財政政策も金融政策も否定するものです。
藤井の文章では、「正統派経済学は財政政策を否定している」と述べているので不正確ですね。

 こうしたリーマン・ショック以後の米国経済学界を中心とした劇的な変化を受け、経済学者スキデルスキーは『なにがケインズを復活させたのか?』(日本経済新聞出版社)という書籍を取りまとめ、いままさに、その本が全世界の多数の経済学者たちに読み込まれている。実際米国では、こうした経済学者たちのケインズ政策への「転向」を受けて、景気対策としての公共投資が大きく注目されており、オバマ大統領はリーマン・ショック後、72兆円という、昨年度のアベノミクスの「第二の矢」のじつに「7倍」もの水準の超大型財政政策を断行した。それ以後も、年始の一般教書演説で、「毎年、インフラの老朽化対策や高速鉄道整備等のための公共投資の拡大を通して、雇用拡大、景気浮揚をめざす」と主張し続けている。

いやー、ここもおかしいなぁ。
アメリカは歳出削減と増税の真っ最中なんですけど。
米国の歳出強制削減のまとめ - Market Hack
歳出削減と増税をしているのに、金融政策のパワーによって経済が保っている、ということも関心のある人の間では話題になっています。
(このことから考えると、消費税は他の税よりも経済に悪影響がある、という説に信憑性が出てきます。)

共投資が経済を左右する!?

 これらの結果は、91年以降のバブル崩壊後の日本において公共投資は、物価下落というデフレ化を止め、名目GDPを改善させる巨大な景気浮揚効果を持ち続けていることを明確に示している。つまり、90年代前半ならびに、小渕政権下で行なった大型の公共投資の拡大がなければ、デフレはより一層深刻化し、物価も名目GDPもさらに下落していたこと、そして橋本政権、小泉政権以降に行なった公共投資の過激な削減が、日本のデフレ不況を深刻化させていたことが示されたのである。

橋本政権は1996年1月11日〜1998年7月30日
小渕政権は1998年7月30日〜2000年4月5日。
小泉政権は2001年4月26日〜2006年9月26日。
それでは、名目GDPの推移を確認してみましょう。
名目GDPの推移 - 世界経済のネタ帳
あれ?
大差ないですね。
数字でも確認しましょう。

年度 名目GDP
1996年 511,934.8
1997年 523,198.3
1998年 512,438.6
1999年 504,903.2
2000年 509,860.0
2001年 505,543.2
2002年 499,147.0
2003年 498,854.8
2004年 503,725.3
2005年 503,903.0
2006年 506,687.0

この期間で名目GDPが最大だったのは橋本政権時なんですけど。
小渕政権と小泉政権でも大して変わらないです。

った勝ったと叫ぶボクサー

リフレ派否定の論説を藤井が載せた件。

 筆者はこの論点も含め、Voice誌上の「ついに暴かれたエコノミストの『虚偽』」(2014年5月号)にて、リフレ派論者が自説を正当化するために持ち出しているデータの多くが、科学的に正当化できない虚偽的主張だということを、実証的に「告発」し、反論を募集した。その後、本誌上も含めていくつかの反論を目にしたものの、残念ながら、当方の告発に対する有効な反論は文字どおり皆無であった(しかも、それらの反論の大半は事前に公表した想定反論に沿ったものであった)。

藤井の論説に対してはきちんとした反論が原田泰教授からありました。
論争の当事者が「俺が勝った」と審判役までやっている点については神経を疑います。
「俺の勝ちだ、俺の勝ちだ」と叫びながら試合するボクサーがいたらどう思います?

フレ派を否定しつつも依存…

デフレ脱却を確実なものにするために「第二の矢」を打ち抜くのなら、成長戦略を見据えたより効果的な財政出動が求められていることは論をまたない。折しも、岩田規久男日銀副総裁(6月3日『ロイター』参照)が主張したように「第三の矢の規制緩和にはデフレ促進の効果がある」ことが懸念されている以上、こうした戦略的な財政政策はいま、日本のデフレ脱却のために是が非でも求められている。

藤井って、リフレ派を嘘つき呼ばわりしているのに、重要なところではリフレ派の見解に頼るんですよね。
どうしてなんでしょう。
規制緩和にデフレ促進効果があるとしても、今は異次元緩和をしているから大丈夫ですよ。
目下の懸念は消費増税ですね。