伸縮的インフレ目標をそろそろ理解するべき

名目GDP水準目標(NGDPLT)に関心を持ちつつも、とりあえず実践できる政策としては伸縮的インフレ目標を支持しています。日本が世界に先んじてNGDPLTを採用するとか、採用し得る仕組みを整備するとは到底思えないので。

デフレと超円高 (講談社現代新書)

デフレと超円高 (講談社現代新書)

現在実施中の異次元緩和は、伸縮的インフレ目標であることを明示していないので、そこは欠点ではあります。コミュニケーションを大切にすると言いながら、一般国民にも分かるような図とかマンガとか動画とかで説明を試みないのは、黒田日銀の怠慢と言われても仕方ないでしょう。
「デフレ=大恐慌」は例外 BIS年次報告書の警告 | 金融市場異論百出 | ダイヤモンド・オンライン
この記事を書いた人は世間からは専門家として遇されているのだろうと思いますが、このような記事を書くだけの勉強というか、読書すらしていませんね。日本では、経済政策に口出しする人が往々にしてこんな調子なので、「言論の基準が低いことですねぇ」と思います。

「良いデフレ」「無害なデフレ」のときにインフレ目標を達成しようとして金融緩和策を行うと、危険なバブルを発生させる……。

この記事の出だし。
岩田副総裁が提唱しているのが伸縮的インフレ目標であることを知っていたら、こういう書き方はしないでしょう。
何が何でも目標を達成しようとするものを「原理的インフレ目標」といいますが、伸縮的インフレ目標は種々の事情を勘案して、目標を一時的に上回ったり、下回ったりすることを許容する枠組みです。
岩田副総裁は、「名目GDP成長率を4〜5%に保つことを念頭において、3%の伸縮的インフレ目標を行うべきである」と主張されていましたので、異次元緩和の目標が2%であることから単純に考えると、名目GDP成長率を3〜4%にすることを、少なくとも副総裁は念頭においていると思います。
(この点についても、黒田日銀が明示しないのは欠点だと思います。どうも黒田総裁は、2%を達成しさえすれば良いと考えているフシがあります。)
となると、名目GDP成長率が年率4%に到達しているのに、インフレ目標2%を無理やり達成しようという動きを日銀がとることはない、ということが分かります。

歴史的には、物価が下落しながらも生産が拡大していった時期が多々あった(第1次世界大戦前や戦間期など)。つまり、デフレは全てが危険なのではなく、「良いデフレ」「無害なデフレ」が存在する。

これは間違いですね。「生産が拡大しているから良い」という判断がおかしい、というサムナー教授の指摘が当てはまります。
生産が拡大したとしても、不本意な失業や賃金の低下が発生していたらそれは有害なデフレです。日本の15年デフレは明らかに有害なものだったのですから、金融緩和しなければダメです。

また、近年の日本のデフレに見られたように、歴史的には、一般物価のデフレより資産価格の下落の方が、マクロ経済に大きな打撃を与えてきた。

これは根拠なき断言。
専門家の肩書で、こういう言説を広めるのは倫理にもとる行為です。

それなのに中央銀行が一般物価の「良いデフレ」「無害なデフレ」に過剰反応して緩和策を大胆に行い、バブルを膨張させると、その破裂とともに「悪いデフレ」がやって来るとBISは懸念する。

これは考えにくいことですね。良いデフレという現象が本当に起こるのかどうか知りませんが、名目GDPが拡大しているのに大胆な緩和策を行う中銀が存在するのでしょうか。
いずれにせよ、伸縮的インフレ目標の下では心配無用のことがらです。

この記述は「南欧のデフレを避けるために、ECBは量的緩和でも何でも行うべきだ」という最近の論調の危険性を強く意識していると思われる。

いやぁ、ユーロ圏は金融緩和しないと苦しいでしょう。対照的にイギリスは調子いいですよ。

それらは主要国の超低金利政策が招いたものだ。それが国債などの安全資産に投資しても十分な利回りが得られない状況を生み出し、「投資家のリスクへの食欲」を高め、「サーチ・フォー・イールド」(利回りを求めて徘徊すること)を強めている。

これは良いことのような気がしますが。
銀行が国債ばっかり買って貸出ししてくれなかったら困るでしょ。

こういった状況から正常化に向かうことは、「前代未聞の困難を引き起こす」。だが、バブル膨張の弊害を考慮すると、「中央銀行は、金融政策の正常化開始を遅くしたり、引き締めペースを過度にゆっくりしたりする場合のリスクを過小評価してはいけない」とBISは主張している。

最近思うのですが、出口政策って必要なんでしょうか?
買った国債が償還されるまでずっと持っていればいいですし、景気が過熱しそうなら、準備への付利を高めたら良いと思うのですが。

このBISの年次報告書が発表された数日後に、イエレンFRB議長は講演で、金融政策と金融システム安定化策との連携を強めるべきではあるが、バブル抑制のために金融政策を使うことは適切ではないという認識を示した。

それはそうでしょう。
バブル抑制に金融政策を使って大失敗して、大量の自殺者を出したのが日本ですし。