土建業の供給力は本当に低いのか?

現在の人手不足は、復興需要・東京オリンピック・国土強靭化・通常の公共事業・通常の民間土建需要、と、需要が重なりすぎて発生しているだけで、土建業の供給力が「不足」しているかどうかは分かりません。
「建設就業者100万人減」の時代とは | 日経 xTECH(クロステック)
これは2009年の記事ですが、土建業の需要と供給は以下のように整理されています。

  1970年度 2010年度
建設投資 41兆6389億円 41兆600億円
政府建設投資 14兆5328億円 15兆5000億円
建設業の就業者 394万人 503万人

建設投資の需要はほぼ同じですが、就業者数は2010年の方が100万人以上多いことが分かります。1970年ごろは東名高速道路や新幹線など巨大プロジェクトを実施していましたから、394万人で支障が無かったことになります。
この資料では、2012年の就業者は503万人、建設投資は44.9兆円となっています。三橋貴明は、「2012年に就業者が500万人をきった」としていますが、どの資料でそのようになっているのでしょうか?
就業者数を単純比較すると、不足しているとは到底思えません。不足しているのは技能労働者なのでしょう。
技能労働者不足率*1は2012年に1.6%だったのが、2014年3月には2.8%に急拡大しています。特に不足しているのは型枠工ととび工だとか。
2012年と2014年で就業者数は変わっていないのにも関わらず、技能労働者が不足してしまうのは、供給力が足りないのではなくて、不自然に需要を急拡大させた歪みが発生しているとみるべきでしょう。
建設業の就業者数は97年をピークに、そこから減り続けています。小泉政権が始まった2002 2001年以降も同じようなペースで減っていますから、小泉・竹中が土建業を冷遇したということはありません。単にデフレが原因でしょう。


就業者数がなだらかに減少しつづけたにも関わらず、技能労働者は余るときもあれば、足りないときもあったことが分かります。*2
建設業の就業者が600万人を超えていた1996年あたりでも技能労働者の不足は0.6%発生しており、「不足しているから供給力が足りない」とは言えませんし、「不足は建設業冷遇のせい」とも言えません。
三橋のように就業者の数だけを見ても「不足しているかどうか」は分かりません。必要とされる人数との比較によって、不足しているかどうかが判定できます。
三橋貴明はいつも同じですが、一つの数字だけ見て判定しようとします。国土強靭化世界には、「比」という概念が存在せず、判定基準は、「自分がそう感じるから」という主観でしかないようです。
ただ、日本人の技能労働者が不足するからという理由で移民を入れられてもかなわないので、技能労働者を増加させる教育システムを構築するべきだろうとは思います。
そして、技能を習得した以上、それを用いて安定的な職業生活を送りたいと当事者が思うのは当然です。
金融政策を有効に用いれば、建設業はもちろんのこと、一般的に労働者の生活は安定しますが、民間建設投資が急減したときに限り、公共事業を有効に用いて、技能労働者の努力に報いて、業界に居続けてもらうことは悪くはないと思います。
ただその場合、

  • 公共事業の有効性を精査する。現状では精査のためのデータすら開示されていない。
  • 下請を2次までに規制する。
  • 公共事業における労働者の賃金 最低賃金を公定する。技能労働者が他の産業に移ってしまわないような水準を検討しなくてはならない。

といった構造改革が必要になります。
公正を確保する仕組みがつくられなければ、ピンハネ階級に税金が垂れ流しにされる装置になるだけです。

*1:型枠工・左官・とび工・鉄筋工

*2:グラフを見れば分かるとおり、第一次安倍政権のころにも技能労働者の不足が発生しています。これは、量的緩和によって景気が回復気味になったからで、アベノミクスで現在起こっていることと同じです。もし、第一次安倍政権のころにも技能労働者不足が発生していたことを安倍政権が認識していたら、国土強靭化のような間違った政策に踏み出すことはなかっただろうと思いますから、残念であります。