【約1年】原田泰教授のアベノミクス評

雪っつっても大したことないだろう、と甘く考えていたら吹雪になっているので驚きました。外に出られるんか、これ。
アベノミクス始動から約1年ということで、原田泰教授による分り易い論評がありましたので、覚書しておこうと思います。

アベノミクス1年 第1と第2の矢を評価する(原田泰)

アベノミクス1年 第1と第2の矢を評価する WEDGE Infinity(ウェッジ)

アベノミクス以前に比べて実質GDP成長率と消費者物価上昇率の予測は上方改訂されている。当然である。13年初から現在までで多くの統計が、大胆な金融緩和政策の成功を示しているからだ。現実にも実質GDPは年率で13年1〜3月期4.3%、4〜6月期3.8%、7〜9月期1.9%と高い伸びを示してきた。
 こういう事実を見れば、大胆な金融緩和の効果がないというのは不可能であろう。

現実が見えるか、経済記事の内容がある程度わかるだけの素養があれば、「金融政策には効果が無い」とは言えませんわな。

図1は、雇用や賃金について示したものである。繰り返すが、確かに、賃金は上がっていない。しかし、雇用は増えており、賃金の支払い総額は増えている。GDPはすべての労働所得とすべての利潤とを足したものであるから、GDPが増えている以上、賃金の支払い総額も利潤も増えているのは当然のことである。こうして雇用が伸びていけば、いずれ人手が不足し、人手を集めるために賃金は上昇を始める。それは十分に失業率が低下し、働きたい人のほとんどが仕事に就けるということでもある。

安倍政権はくりかえし、「賃金を伸ばす」と言っていて、そう主張することは戦略的には正しいのですけれども、リフレーションをする最初の目標は雇用を伸ばすことですから、本当はあまり「賃金を伸ばす」ことは気にしなくていいんですけどね。
しかし、いくら景気の悪い社会でも、「就業者は多数派であり、失業者は少数派である」という現実がありますから、政策への支持を取り付けるには、既に働いている人たちの機嫌を取る必要があるわけです。
就業者の賃金を上げるのは、実際には失業者を減らすためには邪魔になるので作為的に行うべきではないのですが、経済政策以外にもやらなくてはならないことはあり、高い支持率を維持するためにも多少は非合理的な政策にも手を染めなくてはならないということですね。

さらに、実質輸出が増えていないという批判もある。
【中略】
投資や消費は伸びているが、実質輸出は確かに伸びていない。
【中略】
しかし、大胆な金融緩和が輸出を伸ばさずに景気を拡大するのであれば、それは良いことだと思う。なぜなら、金融緩和が、国際的軋轢を増すことなく景気を拡大する方法だと分かったからである。
金融緩和は、為替だけでなく、資産価格の上昇や資金の利用可能性が増すことや将来の物価上昇期待など多くの経路を通じて経済を刺激する。その効果が限定されていないことは良いことなのだ。

輸出は確かに伸びていないのですが、電機や自動車など、一般的に「輸出企業」と思われている会社の業績は伸びていますね。
これは円安によって、「輸入品より国産品を買おう」という機運が高まった結果なのか、円安によって受け取りが増えたからなのかよくわかりませんが、ともかく円安になると輸出が増えなくても企業業績が良化することが判明したことになります。
言い換えると、「輸出が増えなくても景気は良くなる」ということですね。常識の転換です。

これは、来年4月の消費増税の負のショックを和らげるためにも、金融政策が使いやすい政策手段であることを示す。金融緩和の効果が多様な経路を通るものであればあるほど、特定セクターで問題を起こすことが少ないからである。前述のように、輸出が急増するのであれば、貿易摩擦の再燃が懸念されるが、そのようなことはない

「為替レートが安くなっても、そんなに警戒する必要ありませんよ」と外国政府・企業を説得する事実が出来たのは大きなメリットですね。

これはアベノミクスの第2の矢、公共事業による景気刺激とは異なっている。第2の矢は、政府が、建設業など特定産業の生産物を大量に買うことである。この結果、建設資材や建設業賃金などはすでに上昇している。実質生産を引き上げる効果が、物価上昇によって抑制される。公共事業の実質GDPを引き上げる効果は、予算で決められた名目支出額を建設物価指数で割ったものによるから、建設物価が上がれば、公共事業の効果は削減される
【中略】
不要不急の工事をすれば単価が上がって、他の必要な建設工事の妨げになる。第2の矢の財政拡大政策は再考すべき時である。

この部分を国土強靭派はきちんと読んでおくべきでしょうな。
彼らのやっていることは公共事業の効果をむしろ減殺するので、自ら目標達成を遠ざけていることになります。