日本型の景気対策公共事業は社会・経済に寄与しない
- 作者: 宇都正哲,北詰恵一,浅見泰司,植村哲士
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2013/01/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
財政政策、なかんずく景気対策の公共事業について語るとき、経済学的視点から一般的に語るのは、日本的非合理性を考慮していないので正鵠を射ない場合が多いです。
それぞれの国が個々に持つ特殊事情、言い換えると社会的病弊、を勘定に入れなければ、そこにいる国民に対して正しい政策提言は難しいです。
ただ、これを逆に言えば、そういった個々の事情を鑑みなくても効果を発揮する金融政策や、減税・給付金系の財政政策の普遍的妥当性を再確認させるものでもあります。
日本で景気対策の公共事業をすることのどこが問題なのか
景気対策公共事業を日本で行う場合、
- 投資額を重視する(効果ではなく)
- 短期に集中して行う
- 実施のし易さを優先する
ゆえに、
- 地方圏で
- 新設投資が
- なかでも道路投資が
なされることになります。
地方圏は地価が安く、道路投資には高い技術がいらず、しかも細切れ発注をすることができるので、そのようになります。
道路投資には補修も含まれますが、どうも公共事業関係者は新設したがる傾向があるようです。
リーマン・ショック対策を行った2009年度予算(麻生政権)では、「道路の補修に力点を置く」という名目だったにもかかわらず、一般国道では維持補修が304兆円だったのに対し、新設が747兆円になったという、抜け穴的な税金の使い方が看過されてしまいました。
「国民の安全を守るための」維持補修よりも新設が、いつのまにやら倍以上に膨れ上がる様子をみると、新設のほうが楽に儲かるのでしょう。
道路投資の問題点とは?
一言でいうなら、「社会・経済に寄与しない」ということ。
前提として、日本の道路需要は下がっています。
1995年から2009年にかけて貨物輸送では14.9%の低下、2001年から2009年にかけて旅客輸送では6.5%の低下です。
1990年代以降に景気対策公共事業として地方圏への道路投資がさかんに行われましたが、地方の成長率を上げることができませんでした。
企業の期待成長率も反応しませんでした。
それどころか、人口一人あたりの生産基盤投資が多い都道府県ほど成長率が低くなっているという有り様。
生産基盤投資は道路だけではありませんが、新設公共投資の3割は道路なので、関係があります。
東京圏の外郭道路なら経済・環境に対してメリットをもたらすでしょうが、地方に道路を新設しても維持費がかさむだけで経済への好影響はないのです。
効果的な公共投資のためには、道州制の方が良い
大きくわけると2つの理由があります。
- 新設時の非効率を防止するため
- インフラにおける今後の持続可能性のため
1について。
これまで行われた工業団地・農業基盤整備が大して活用されずに大規模な非効率が生じた理由は、県ごとに産業戦略が立てられ、バラバラにインフラ整備をしたために、分散による非効率・過剰設備が発生したからです。
言い換えるなら、不要な設備が重複して建造されたということ。
そして先に見たとおり、景気対策公共事業を行うと、早期に事業が実施できる地方へとカネが流れ込み、それは新設誘致合戦になります。
使われない施設の建造競争になってしまいます。
2について。
先日のエントリでも書きましたが、日本にはムダなインフラが多すぎて維持費がかかりすぎ、このまま進むと2037年ごろには新設投資をする余裕がなくなると見られています。
インフラの維持管理費は削ることが難しく、財政の硬直化をまねきます。
また、インフラを維持管理しても生産性が上がるわけではないので、効果のある新設ができなくなることによって社会の効率性が低下してしまいます。
このような事態を防ぐには、
- インフラ投資を経済成長の核に集中させる
- 新設投資を毎年3.6%ずつ減らす
- 更新を前倒しして、更新費をならす。将来のある時期に集中させない
- 更新時期をむかえたインフラの半数を廃棄する
といった強い方針転換を行わなければならないと言われています。
しかし、それでも足りません。何故なら日本は人口減少していくので、インフラの廃棄を更に増やすか、大きく経済成長するかしなければ、やはりインフラ投資が破綻してしまいます。
インフラ投資を集中させ、重複施設を統合し、利用頻度の低すぎるものを廃棄するためには、今のように都道府県ごとに事業を行うのではなく、広い範囲で計画を進めなくてはなりません。
例えば、港湾については大規模なものを活用し、小規模なものは地域同士での共有・統廃合が必要です。
また、空港も統廃合が必要です。現状、利用率が低すぎるムダな空港が問題になっていますね。
このような事業を進めるのに有効なのは道州制です。
道州制によって広域の産業戦略を立案すれば、過剰なインフラ投資を防ぎ、集積のメリットを活かして生産性を向上させることができます。
最後に…国土強靭派が道州制に反対する動機は?
興味深いですね。
これについては上記エントリをご参考に考えてみて下さい。