消費増税、単なる負けか、落とし前はつけるのか


この辺に注目したいですね。
ただ、どちらなのかは相当長い期間で観察しないといけないので、気長に安倍政権の行く末を見守ることになるでしょう。
単なる負けで慢然と存在する政権だと、何がやりたくて執権しているのか、妥協したのか、よくわからないまま退陣ということになりかねません。
それではあまりにも虚しい。

にしなくてはならないこと

それは2つ。

  1. 消費増税の悪影響を相殺すること
  2. 不公正、不平等な財政運営を糺すこと

安倍首相は「社会保障財源として消費増税が必要だ」と、官僚の主張そのままを言っていましたが、税収を上げても社会保障の問題は解決しません
おまけに消費増税では税収すら上がらない可能性があるので尚更。
社会保障の問題は、天下り・特定業界や企業への優遇・安易な公金投入、といった不公正と非合理に起因するものですから、税収をいくら上げてもそれは更なる天下り、業界優遇、公金投入に化けるだけで、問題がこじれるだけに終わります。
つまり、消費増税の問題と社会保障の問題はほとんど関係ない、というか関係させると事態が悪化するので止めてほしいものであります。
社会保障はどちらかといえば、上記の2にあたる問題なのです。
安倍政権が気にしなくてはならないのは、上記の、特に1つめです。
現在発表されている財政政策では力不足で、消費増税の悪影響を財政だけで何とかしようとすると、莫大な金額がかかってしまいます。
それは「財政再建」や「社会保障維持」といったお題目とは完全に矛盾する状況を生みだすので、国民からの視線はとても厳しくなるでしょう。
今回の消費増税のネガティブなショックを相殺するには、追加の金融緩和、ないし金融政策の改善が必要になります。
今年度中は駆け込み需要でむしろ景気がよくなったような外形になるでしょうから平気ですが、4月から金融政策を改良しなければ、早くも安倍政権は危機的な状況に陥るでしょう。
この点でも余程のことがない限り、私は悲観的なのですけれども…
黒田総裁の口ぶりを聞いている限り、経済が実際に悪化しないと追加の金融緩和はやらないという感じです。
それでは勿論、遅いのです。
経済が悪化して失業が発生し始めてから弥縫策として追加緩和をしても、持ち直すのには時間がかかるでしょう。
そうしている間に、2015年になってしまい、次の消費増税の時期がやってきてしまいます。

次元緩和の改良

追加のQEとして、毎月の資産購入額を単に増やすということでも良いとは思いますが、以下の点を変える必要があると思います。

  1. 「250兆円のマネタリーベースで完璧」をやめる。
  2. 名目金利を低位安定させる」というイデオロギーを捨てる。
  3. 名目GDP成長率を4〜5%に保つことをもう一つの目標として明記する
1について

250兆円のマネタリーベースを2年程度で達成する、という異次元緩和の良い所は、毎月の資産買取額が高水準に保たれるということです。
単に「無制限に資産を買い入れる」としてしまうと、白川日銀のように月ごとの買取額が低くおさえられる危険性があります。
ただ異次元緩和の弱点は、「250兆円のマネタリーベースで2%インフレ目標が達成できるかどうか未知数」という点にあります。
黒田総裁は「できる」と言っていますが、アメリカの状況を見ている限り、マネタリーベースだけを指標としても、他の阻害要因がでてくるとうまくいかないのではないかと強く推測されます。
そこで現在の異次元緩和のルールに加えて、「250兆円のマネタリーベースを達成した時点で2%インフレ目標と4〜5%の名目成長率を実現できていない場合には、それまで通りのペースで資産買い入れを続ける」という条件をつけて、オープンエンドの金融政策に転換するべきだろうと考えます。

2について

黒田総裁によれば、「名目の長期金利を低く抑えれば景気に良い影響がある」ということなのですが、これは簡単なデータを参照すればわかる通り、根拠がありません。
他のデータもいろいろ見れば誰にでもわかりますが、アメリカのQE、2000年代日本の量的緩和においても、長期金利が上昇して景気が阻害されている証拠はありません。
逆に、長期金利の上昇にも関わらず経済は活況を呈しています。
黒田総裁と日本マスコミは、10年もの国債の利回りが1%を超えると騒いで火消しする、マッチポンプ・コントをしてきており、それが市場からバカにされて予想インフレ率の低下や株価下落を招いていますが、黒田総裁が参考にしていると言われる、バーナンキ氏の考えでは、「日本は2.5%の長期金利まで許容して金融政策を運営せよ」と提言されており、これは先日発売されたクルーグマン教授の著作に登場します。

2.5%の長期金利まで許容するという考え方は、それですら「無意味だ」と否定する論者もいますが、少なくとも2%インフレ目標と矛盾しません。
ところが黒田総裁は、「2%インフレ目標を達成する」と言いながら、長期金利が1%を超えるとオタオタしてしまいますから、「訳がわからん」という話になるのです。
2%インフレの世界において、1%の金利でカネを貸したら、貸した方が損をしてしまいますから、そんな金利はあり得ません。
現在の長期金利が0.6%台であることを、官僚ポチの日本マスコミは肯定的に報道しますが、それはつまり、「2%インフレ目標の達成にはほど遠い状態である」ということなので、良い話ではないのです。
2%インフレ目標が達成できない世界とは、生産と雇用と賃金が低調である世界なのですから。
私の提案として、「少なくともバーナンキ氏が言うように、2.5%の長期金利までは気にすること無く金融緩和せよ」と言いたいと思います。

3について

名目GDP4〜5%を達成する、のではなくて、その成長率を毎年保つべきだ、と主張します。
つまり、水準目標です。
水準目標とは、ある年にだけ目標を達成できれば良いのではなく、仮に目標を下回る年があったとすれば、翌年には落とした分も含めて取り戻すことを約束する枠組みです。
まさに、毎年落とし前をつける政策です。
何かあったら必ず落とし前をつけるようにしている人が周囲から畏敬されるように、水準目標を掲げると、世の中の「予想」が安定します。
うまくいかないことがあっても、「この失敗も日銀は取り戻すように行動するだろう」と世間が予想するので、資産価格の暴落が発生しにくくなります。
一般の人々の需要(=名目支出=使うカネの額)も安定します。
なぜなら、一般の人々の雇用や賃金も安定すると予想されるからです。
これらの結果、実体経済も安定します。
この提案は名目GDP水準目標とはちょっと違っていて、あくまでも実際のGDP統計をみて判断するものです。
先を見る指標としてはインフレ目標を使うしかないと思います。
この間のGDP統計でも感じたことですが、現状でGDP統計はあまりにも遅いし、修正も多すぎて、こういったものの先行きの予想を金融政策の指標にするのは困難だな、という理由からです。
インフレ目標を達成していながら、名目GDP成長率が4%に達していない場合には、引き続き金融緩和をすることになりますから、インフレ率が3%、4%になる可能性もありますが、それは許容しなくてはならないので、マスコミによる妨害を防ぐ必要も出てきます。
ただ、生産効率を上げれば上げるほど、名目GDPにしめるインフレ率の割合を下げることができるので、名目GDP成長率を目標に入れることによって、構造改革の重要性が増します。
それはアベノミクスの「三本の矢」という構想に合致するものでしょう。

公正な財政運営

この度の消費増税そのものが、不公正な財政運営そのものなのですが、日本社会にさまざまな矛盾、破綻の危険性をもたらしているのは、財政運営が非合理的だからです。
私程度の者が思いつくだけで、簡単に次のような事柄を羅列できます。

  • 増税といえば消費税しかないというプロパガンダ
  • 所得減税、法人減税、消費増税という組み合わせは、減収を招く虞がある(例:前者2つによるアメリカの事例)
  • 消費税のインボイスの不在
  • 歳入庁の不在
  • 維持費で赤字まみれの公共施設の群れ
  • 公金を投入するべきでないのにしている赤字施設の群れ(例:野球場)
  • 農業…破綻寸前
  • 漁業…破綻寸前
  • 社会保障…破綻寸前
  • 天下り
  • 国の資産が、常軌を逸して積み上がっている
  • マスコミへの経営支援
  • 高水準の公務員給与

これらの事柄は、それぞれの分野でことごとくモラルハザードを引き起こし、その分野の持続可能性を脅かしています。
なかには日本社会そのものを危機にさらしているものもあります。
消費増税問題におけるマスコミはその例です。
消費増税をさんざん煽っておきながら、決定後のマスコミは「消費増税による国民負担の増加」についてさかんに口にし始めました。
予想されていたことですが、マスコミと官の結びつきを切らないと、国民のための政策は何もできません。
上に羅列した問題は、どれ1つをとっても取り組むのに物凄い抵抗を招くものばかりですから、全部命がけになってしまいますが、取り組まなければ日本社会がもたないので、やるしかないのですよね。
取り組んで死ぬか、座して死ぬか、のどちらかしかないところまで来てしまったのが良くなかったのですが、まぁ人間とは常にそういうものかもしれません。
旧石器時代新石器時代の人類が、行く先々で大型動物を食べ尽くしてきたことを考えると、基本的に人間は貪りつくして自滅するタイプの生物なのだ、ということなのかもしれませんしね。