物価目標2%達成でも賃金・生活改善なければ失敗=岩田日銀副総裁

インフレとデフレ (講談社学術文庫)

インフレとデフレ (講談社学術文庫)

本日8月28日の記事ですが、8月15日にも岩田副総裁の記事があったようです。
メディアは黒田総裁の発言ばかりクローズアップしないで、岩田副総裁のメッセージも積極的に表に出すべきでしょう。

物価目標2%達成でも賃金・生活改善なければ失敗
岩田副総裁は、現行の異次元緩和政策が、1)2%目標へのコミットメント(必達目標)と、2)国債などの買い入れによるマネタリベース(資金供給量)の増加──との2つの柱からなると説明。必達目標を掲げることで、デフレになじんだ人々の物価観を転換するのが核心と強調した。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE97R05Y20130828?sp=true

「日銀が必ずリフレーションを達成する」ということを人々に確信させることで、人々の経済行動を変えることが重要であるわけです。
岩田副総裁の主張は在野のころと全く変わっていませんが、黒田総裁の発言には危険な香りが微妙に漂い始めています。
黒田総裁は先日、「金融緩和政策の成功とは、自然利子率を実質利子率が下回ることである」という内容のことを言っており、インフレ目標達成に言及しませんでした
自然利子率は、出し方がいろいろ考えられる推計値にすぎません。そしてそれは、架空の経済状況で存在するであろうという理論的概念にすぎないものでもあります。
そのようなものを基準に政策の成否を図ろうというのは、現実を没却して自らの「成功」を強調し続けてきた、白川以前の日銀の行動様式と軌を一にするものであり、国民・国家・社会のために貢献するよりも組織防衛と保身に重きをおく、官僚的本性を黒田総裁が現し始めたように私には見えます。
リフレーション政策を実現して*1アベノミクスを成功させるために、岩田副総裁へのサポートがもっと必要なのでしょう。

融政策が実体経済に波及するには「株価の上昇と円安が必要」と指摘し、波及するには「半年から1年半かかる」との見通しを述べ、アベノミクス実体経済に好影響を与えていないとの見方をけん制した。

この点も従来通りの主張です。
「株価の上昇と円安」の足を引っ張るような行動をとっていると、単に紙幣の増刷をしても効果が出にくくなります。
効果が全く無くなるわけではありませんが、非常に出にくくなります。
よくある間違いに、「リフレーションは紙幣の増刷であり、増刷された紙幣が主要な効果を発揮する」というものがありますが、その認識を修正するには岩田副総裁の「インフレとデフレ」に出てくる、ハイパーインフレの収束にまつわるエピソードを確認するとよいでしょう。
ただ、「準備金には通常の金利、超過準備と銀行の手元現金にマイナス金利を付ける」という、マーケットマネタリストからのアイデアが日本リフレ派からどう評価されるか知りたいとは思います。

体経済に効果が波及するまでの間は「財政政策による需要の下支えが重要」とも指摘。安倍晋三政権が「第3の矢」として進める成長戦略は、一時的に過剰な供給力を作り出すと指摘し、「金融緩和で需要を創出することで、潜在成長力を引き上げることができる」と述べた。

やはり従来通り。
「金融緩和が潜在成長力を引き上げる」という点について、岩田副総裁の主張は黒田総裁の主張とはニュアンスが異なります。
記事だとその差が伝わりません。
「金融緩和で需要が創出され、経済が活発になると、うまくいきはじめた企業が自発的に生産力を拡大する、そのことを通じて潜在成長力が伸びる」、ということです。
黒田総裁は、「経済が活発化する」という部分をとばして、何故か「潜在成長力が上がる」という結果に飛ぶところが奇妙です。株価上昇と円安という重要経路を阻害する発言を繰り返しながら、そのような発言をするから余計に奇妙です。

融緩和の波及経路については、予想インフレ率が高まることで、「円資産より外貨保有が有利になり円安になる」、「円高修正が一時的でなく安定的ならば企業は設備投資に踏み切る」と説明した。

従来通り。
安定的円安が大切なのですから、円安を阻害する発言を黒田総裁は控えるべきです。
財務省ドグマに忠誠を表明したり、信奉してきた経済理論に執着することによって円高傾向を招いているという事実を、黒田総裁は重く受け止めるべきです。
重く受け止められないなら、公人とは言えません。

%の物価目標を安定的に達成できれば、「政府から要請があっても日銀は国債を買わない」と指摘し、大胆な金融緩和が財政規律を緩めているとの見方をけん制した。

ここ、非常に重要。注意して読むべき。以下、理由。

  1. 2%インフレ目標を堅持する意思を日銀が示すなら、金融緩和が財政ファイナンスと見なされることはない。
  2. 2%インフレ目標を安定的に達成できれば、国債の買い入れはしない。逆に、達成できるまでは買い入れする

黒田総裁の異次元緩和とリフレーション政策の違いが表れています。
1について黒田総裁は、「消費増税しなければ異次元緩和が財政ファイナンスとみなされる」などと発言していましたが、それは2%インフレ目標を掲げていることと矛盾しているということです。
「クロダはインフレ目標を達成するつもりがあるのか?」と疑念が抱かれるのはこの点です。
2%インフレ目標があれば、消費増税への賛否は金融政策の成否と関係ありません。
2について、これは従来通りのリフレーション政策の内容であり、「2%インフレ目標が達成されるまで、国債の買い入れを継続する」というものです。
それに対して異次元緩和は、「マネタリーベースを270兆円にする。それで2%インフレ目標を達成できる」としていますから、因果関係を逆にしています
マネタリーベース270兆円で2%インフレ目標を達成できる、というのは黒田総裁の推計に過ぎないのであって、実際にできるかどうかは未知数なのですから、論理的に弱いと思われます。
現実に、アメリカはリーマン・ショック以前よりもマネタリーベースを3.5倍にしていますが、状況によってはインフレ率が2%を下回っていることもあります。
「マネタリーベースは金融政策の指標としては良くない」というサムナー教授の意見の裏付けになっていると思います。

*1:異次元緩和はリフレーション的ではありますが、日本リフレ派が主張してきた政策とは重要な点で異なります