この円高は問題があるように思える

常識的に見ると円高になる要素が少ない状況であるのに、かなり強く円高が進んでいます。
今、94.59円で、株価も700円近く下がっています。
株価の乱高下は気にする必要がないというか、株価は為替レートや予想インフレ率の動向を受けて動くものなので、結果に過ぎません。
他国のリスク回避のために円に逃げ込んでくるという要素が円高の一因であるかもしれませんが、これほど強く円高を引き起こすとは思えません。日銀が従来にない金融緩和をしており、これからも続けると言っているのですし、実際に5月22日、日銀決定会合までは円安へと順調に向かっていたのです。当然、株価も伸びていました。

5月下旬の円高傾向も奇妙で、「アメリカの金融緩和縮小が予測された」のは円安要因ですから、その状況で円高に向かっていたのは異常な状態でした。
実際のカネの動きに反した動向が観察されるのは、やはり「予想」に傷がついたからではないかと思われます。
5月22日を境に、予想インフレ率の低下、円高が始まっているのですから、日銀のレジームに疑いがもたれたのが契機であろうと強く推測されます。
私が問題がありそうだと考えているのは次の3つです。

  1. 長期金利の低下に拘泥する金融政策
  2. 消費増税容認論
  3. 「過度の円安」の忌避

1については日銀総裁が明言しており、それが問題だという指摘はラルス・クリステンセン氏からなされ、説得力がありました。
予想インフレ率を2%に固定せよ - Maddercloud
6月11日の日銀決定会合では、ニュアンスは緩んだとはいえ、依然として金利低下に拘っており、その非合理性がマーケットから疑念を抱かれている可能性があります。
金利低下努力」にはキリがありませんし、必ず失敗する政策ですから、「意味不明」とみなされても当然であります。
アメリカのQE1、QE2、日本の2000年代の量的緩和でも長期金利は上昇していますから、景気回復を目指した金融政策をすると金利が上昇するのはまず普通です。
日本のように、1%をこえるとマスコミが指令でも受けたかのように大騒ぎするのは合理性に欠けた風習というべきものです。
ただ、私が関心を惹かれているのは、「QE3で金利が上昇していない」という事実です。
この点についての分析が存在しないものかと探しています。
5月22日を境に状況が悪化しているのを考えると、上にあげた1〜3のうち、原因である可能性が高いのは、やはり1だろうと思います。
2については、「黒田総裁が消費増税を容認した」とする意見を見たことがありますが、私はまだ確認していません。
ただ、リフレ派の山本幸三議員や、リフレに同調的な竹中平蔵教授など、著名な政府関係者が消費増税に賛成しているようです。
財務大臣その他の閣僚が賛成しているのは御存知の通り。
消費増税が予想されると、これは予想インフレ率を下げ、円高要因になると思います。
消費増税そのものは物価を上げますが、経済活動の停滞を通じてデフレを悪化させます。
自民党橋本政権が行った消費増税で、それは証明されています。
消費増税の予想がマーケットからネガティブな評価を受けているとするなら、増税の可否決定をあと4ヶ月も伸ばすと、それはリフレーション効果を相当に毀損するだろうと思います。その間、実体経済の回復が停滞するか、極めて少ないものになる可能性があります。
消費税を問題とするのはもちろん憶測に過ぎませんが、税収が上がる可能性が低いのは確かなので、その面からも早期に消費増税の延期を決定するべきかと思います。
3については日銀から明言はありません。ただ、「1ドル110円未満におさえるべき」という意見は、政府関係者から何度か出されています。
私の主観的な推測でも、どうも円安になり過ぎないように日銀が配慮しているように見えます。
数字の裏付けがないので邪推といえば邪推ですが。
しかし、TPPへの参加交渉などを控え、110円を超える円安を掣肘する考えが政府にあるのは、相当に確かだろうと思います。
アメリカでは日本の通貨安を批判する動きが出ています。
この動きは非合理的であるだけに、対処は難しいですね。これはアメリカの一部業界を守るための動きに過ぎず、アメリカ経済全体の利益には反するものですから、本来なら抑えられるべき行動なのですが、現実には彼らは力を持ってしまっているので、日本としては苦慮しつつなんとか通貨安にもっていく努力をするしかないようです。
日本でも農協や社会保障関連の業界団体が、日本経済全体の利益を蹂躙して、それを何十年も止められないという現実があります。
もしマーケットが「日本はTPP参加を念頭において、通貨安に躊躇するだろう」と予想したならば、それはデフレ脱却に向けた金融政策の停滞を意味するのですから、やはり予想インフレ率の低下、円高の原因になるだろうと思います。
サムナー教授は「デフレから脱却したいなら120円を目指せ」と書いておられます。
TheMoneyIllusion » Should Japan aim for 2% inflation?
ここまで書いた懸念がすべて杞憂で、「なんとなく円高もおさまりました。黒田岩田日銀の政策への理解が浸透し、その効果も蓄積したのでしょう。」ということになれば、一番いいのですが。