時をかける少女


観よう観ようと思っていて見逃してしまったアニメ。
今さらですけど、非常に良い作品でした。
観終わってみて感じるのは、ネットでの評判を事前に読むのはよくないこともあるな、ということ。
公開当時ネットでさかんに見かけた言説は、「時をかける少女を見ると死にたくなる」というもので、非モテ的な自己提示をする人たちが「あんな爽やかな青春は俺にはなかった」という意味あいでそう言っていたわけです。
僕はそれを読んで「ああ、大衆受けするように筒井作品にある”痛み”をそぎ落として作ったんだな」という印象をもってしまいました。
少しでもややこしかったり暗かったりすると、最初からまるでその作品を拒否する人々が世の中には多いですから、そういう人たちに売れるように小奇麗なパッケージにしたんだ、と解釈したのですね。
が、実際に映画を観てみるとそうではなくて大変工夫を凝らした素晴らしい作品であることがわかりました。
筒井作品の多くは「喪失感」「罪悪感」といった心の痛みを引き起こす要素を持っていますが、このアニメ映画はそのような本質を理解した上で上手に換骨奪胎し、アニメに合うように、多くの一般の人々にも受け入れやすいような形で別の”痛み”を表現することに成功しています。
非モテ的解釈によるような、「いけてる若い男女が、爽やかな空間で青春の時を謳歌するのを見せつけられる」というものではありません。
この映画には多くの人が経験する「喪失」「挫折」「後悔」といった感覚が織り込まれており、それがかなりオブラートに包まれて、登場人物への救いももりこまれてはいても、きちんと描かれています。
ソフトな仕上げにしたのは、おためごかしというより思いやりからだと僕は感じました。