やめられない止まらない異次元緩和

カルビー かっぱえびせん 90g×12袋

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従来「常識」として語られてきた理論でも、データを見たらおかしいとか、よく考えてみたら変だ、ということはよくあることなので、責任ある立場で政策を遂行するなら、その辺をきちんとおさえて仕事をしてほしいと思うわけですが、日銀審議委員の森本 宜久という人の講演を読むと、黒田総裁と同じく「長期金利を下げるのが経済に良い効果を発揮する」、などと同じことを鸚鵡のように話していて、「どうして日本ではデータや論理を使って真理に至ろうという意識が薄いのか?」と暗澹たる気分になります。
とにかく「世間でうまくやれたらいい。真理はどうでもいい」というのは、有用なブラグマティズムだとは思いますが、それはその人間の保身にとって有用だということに過ぎず、しわ寄せは必ず社会に発生します。
社会へのしわ寄せでとんでもないことになった例は戦争でも原発でもデフレでも枚挙に暇が有りませんが、そういった道から日本人が一向に外れることができないのを見ていると、文化の束縛とは恐ろしいものだと思います。
心ある人は積極的に海外の視点や学問を紹介し続けるべきなのでしょう。
日本はいまだ、巨大なムラに過ぎませんね。

金利を低位安定させるのが利益」とか言いますが…

「経済を回復させるために長期金利を低位安定させる」というのは実現不可能な目標です。
こういうことを黒田総裁が言うたびに、市場からはバカ扱いされて円高と株安を招いてしまいます。
どうして「バカ」か、というと、次のような記事が参考になります。

「8月は円高」のジンクス、今年は杞憂? 米長期金利上昇で円安水準維持
2013.8.24 08:45
 米景気が緩やかに回復している上、米連邦準備制度理事会FRB)による量的金融緩和の早期縮小観測から米国債が売られ、長期金利の指標である10年物米国債利回りは、5月時点の1%台から、足元では3%近くに上昇。

アメリカの量的緩和の縮小が予想されて、アメリカの長期金利が上昇した、という記事です。
これを日本にあてはめると、どうなるか。
異次元緩和は、「マネタリーベースを270兆円にすれば、2%インフレ目標は達成できる。それ以上必要ない。完璧。」と言っている政策ですから、マネタリーベースが270兆円に近づくと、その時の経済状況がどうであれ、金融緩和は終わりになるという予想がでます。
そうなれば長期金利が上昇する可能性が高いです。*1
長期金利を上げないようにするためには永久に異次元緩和を続けなければならなくなり、「270兆円で完璧」という理論が破綻します。
黒田総裁は普段から矛盾だらけの発言をしていますが、政策自体も矛盾が組み込まれた代物です。

れ以前に長期金利が上昇したらどうするのか

異次元緩和の終わりに長期金利が上昇するのは相当に確かだろうと思うのですが、それ以前に曲がりなりにも景気がよくなってきたら、その時点で長期金利が上昇する筈です。
その場合はどうするのでしょうね。
財務省ドグマではアホみたいに「とにかく金利を上げるな」と厳命されているらしく、黒田総裁は唯々諾々と従っていますが、「景気を上げて金利を上げない」という行為は不可能なので、その場合に何をするのか危ぶまれます。
長期金利を上げないことを優先して、リフレ的政策を放棄するのではないか、というのが論理的な帰結になり、とてもマズいことになります。マズいことになりますが、官僚的組織防衛と保身という行動様式を身につけた黒田総裁はおそらくそうするのではないでしょうか。

金利が高くても景気の足かせにはならない

ここ10年で名目GDPが最も高かったのは2007年で、第一次安倍政権後期から福田政権の時代です。
量的緩和の終末期である2006年の長期金利は一貫して1.5%以上あり、2%近くあるときもありましたが、名目GDPは伸びました。
長期金利推移グラフ | 日本相互証券株式会社
日本のGDPの推移 - 世界経済のネタ帳
2008年には名目GDPが下がってしまうわけですが、その間も長期金利は上がったり下がったりしてよくわからない動きをしています。
ただ、少なくとも「長期金利が下がると景気が良くなる」という傾向は観察できません。
リーマン・ショック以降、長期金利が下がっていったことが見て取れますが、その間の経済状況がどうであったかは、皆さんご存知の通り。
このグラフを見ていると、「金利は指標としてあてにならない」というマーケットマネタリストの主張に肯んじざるを得ません。
以下は量的緩和期以前の長期金利の推移。やはり、「長期金利の低位安定が景気回復に役立つ」という関係は見て取れません。
むしろ逆に見えます。

*1:ただ、金利の動きはよくわからないことが多いので、そもそも黒田総裁が「国債買い入れによって長期金利を抑えうる」と主張していること自体がおかしいのですが。アメリカでは国債買い入れをしても長期金利が上昇する現象が2度にわたって観察されています。

農協&漁協「消費増税賛成。でも農民と漁民にはカネよこせ」

農協月へ行く (角川文庫 緑 305-14)

農協月へ行く (角川文庫 緑 305-14)

消費税 複数税率景気対策
8月29日 18時19分
消費税率の引き上げを巡る政府の集中点検会合は4日目を迎え、農協や漁協の代表者からは「引き上げはやむを得ない」としたうえで、食料品などの税率を低く抑える複数税率の導入を求める意見や、農家や漁業者への支援策などを講じるよう求める意見が出されました。

企業も農民も漁師もどうしてこうもエゴ丸出しの発言をしれっとできるのか理解に苦しみますが、こんな捻くれた提案をするくらいなら、消費増税に反対すればよいと思うのですね。
企業も農民も漁師も、消費増税すれば自分たちの産業が打撃を受けることくらいは分かっているのですから。
しかし、企業も農民も漁師も、官との結びつきを深めて特別扱いしてもらうことに慣れてきたゆえに、まともな発想が出てこなくなっているのです。
農民は国からカネをもらいながらコメの価格を釣り上げてもらい、漁師は燃料代を国にせびります。官に媚びておけば、そういうことがやりやすくなるわけですね。
どいつもこいつも自分のことしか考えない世の中、消費増税の行方はどうなることやら。
消費増税を追加の金融緩和で相殺しようという案も出ていて、それは可能だろうとは思うのですが、利権あさりで消費増税をする人たちなら、金融政策よりも財政政策で相殺しようと提案してくる筈ですし、黒田総裁がそれに抵抗する根性を持っているようには思えませんけどね。

2013年08月28日のツイート