実質賃金が下がっても「国民」が貧しくなるわけではない
実質賃金は平均値なんだからそれだけ見ても無意味、という話が分からない方が多いらしくて、三橋を始めとした自称保守の既得権擁護派も、左翼政党に追随するネット・プチ左翼の皆さんも実質賃金の低下が「国民」の貧困化だ、と信じて疑わないようであります。
人の発言をよく聞く、よく読む、のは大事なんですけれども、そのあと自分でも考えを巡らさないと単純なプロパガンダに引っかかります。
三橋や左翼政党の場合は、さすがに本気でこの話が分からないわけではなく、人々を混乱させるのに良いネタだから活用しているだけだと思いますが、三橋や左翼政党に影響される一般の人々は、いくら竹中平蔵が「実質賃金が下がったとしても、賃金総額は増えている(のだから、ポジティブな状況なのだ)」と言っても、「竹中だから信用できない」という、判断基準とはおよそ言えないような「基準」で「判断」しているようです。
仲間の言うことは信用できる、信用しなきゃいけない、という発想だけで、自分の頭を使わない人はプロパガンダの餌食になるだけですわな。
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もはや、日本の経済政策のメトリクス(評価尺度)は、実質賃金一本に絞った方がいいでしょう。何しろ、11か月連続で実質賃金が下落している、すなわち「国民が貧困化」しているわけですから、洒落になりません。
こういうのを読むと、「おめぇ何言ってんだよ、タクシー規制の話の中じゃ、名目賃金を問題にしとったやないか」と思うわけですが、三橋にしてみれば、「ブログを読んでる奴らには分かりゃしない」ということなんでしょうし、現実に三橋は変わらぬ支持を得ているのですから、実際に「分かりゃしない」のであります。
実質賃金が下がると国民が貧困化する、などと考えている人でも、簡単な例を考えれば、そうではないことがわかります。
国民10人の社会
今ここで、国民が10人の社会を考えてみましょう。
この社会ではある時期に次のような条件がありました。
- 10人のうち、仕事があるのは5人。残り5人は失業者。
- 仕事の賃金は100円。(失業者は賃金0円)
- つまり、平均賃金は100円。社会全体の賃金は500円。
ところが、国民の半数が失業しているという悲惨な状態を打開するために大規模金融緩和が実行され、雇用が増加し、全員が雇用されることになりました。しかし、景気回復の初期には、いきなり正社員にはなれないので、賃金の安い非正規雇用からのスタートです。
- 10人とも仕事につくことができた。
- 仕事の賃金は、5人は変わらず100円。残り5人は80円。
- 賃金総額は、5×100+5×80=900円。
- 平均賃金は900÷10=90円。
御覧ください。
金融緩和によって平均賃金は下がりました。
しかし、社会全体における賃金総額は大幅に増加しています。
社会全体における「使えるおカネ」が大幅に増えたのに、この状態を指して「国民が貧困化している」といえるでしょうか?
言えるはずがありません。
賃金0円だった人々が80円貰えるようになったのですから、社会の格差も縮んでいます。
この例を考えて分かるのは、三橋貴明や左翼政党が「国民」と呼んでいるのは、不況でも仕事からあぶれない、労組に入るような大企業正社員や公務員のみである、ということです。
リフレ支持者が気にしているような、仕事につけない人々のことではないのです。
「賃金」というのは働いている人が受け取るものであり、「所得」とは違うということをおさえておかないと、プロパガンダに騙されます。
三橋貴明は意図的に、賃金と所得を混同させた話をするのが得意です。